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夜空の星

 被害者の数を聞き、カンナはポツリと呟く。

「……沢山の人が、傷つきましたね」

 何千人もの人が傷ついた事実を見て、カンナは心を痛めていた。それを行ったのが身内なものだから余計だ。

 他の人たちは状況を考えると少ない方だと言っていた。確かに、状況的には突然大地震が起きて津波に飲まれるたり竜巻が発生するよりも酷い状況ではあっただろう。

 かといって決して少ない数ではないし、傷ついた人たちの数倍以上の人が悲しんでいるだろうと思うと罪悪感が凄い。

 どうにか止めることが出来なかったのかと、カンナは思う。他の人たちと違って、カンナは魔人だ。向こうも自分も面識はなかったが、それでも自分が魔人であることを証明して説得すれば結果が変わったのではないのかと思い悩んでしまう。

(……でも、バラしたらバラしたで私がこっちにいる意味がなくなっちゃうのよね)

 思わず溜め息をつき、カンナは首をブンブンと振って思考を切り替える。

 辺りを見れば、怪我をしなかった人や軽傷で済んだ人たちがワイワイと騒いでいる。暗い雰囲気に包まれているよりはマシなのだろうが、それでもこんなに騒ぐものなのかと思ってしまう。

「今はとにかく、生きてるってことを実感したいんだろう」

「え?」

 突如声をかけられ、カンナは驚きながらも振り向く。そこには全身が包帯で巻かれ、明らかに重傷であるにも関わらずに平然と立つアレンの姿があった。

「サクラはどうしたんですか?」

「姫ならほら、あそこだ」

 そう言いアレンが指差した先には、民衆に握手を求められたり様々な食べ物を勧められて完全に外交モードになっているサクラ姫がいた。その顔にはとても自然な笑顔があるが、深く関わっている者なら不自然に感じる笑みだった。

「……もうお姫様だってことバレてませんか?」

「こんな状況になったんだ。仕方あるまい」

 やれやれと溜め息をつき、アレンはコップになみなみと注がれた酒を一気に呷る。

「……寝てなくていいんですか? 傷だらけらしいじゃないですか」

「この程度、食べて寝てたら治ってるさ。それよりも……」

 アレンは周りを気にするように視線を巡られ、喧騒に紛れて他人には聞こえないであろう声量で言う。

「さっきの続きだがな、ここにいる殆どの者たちは怪物共に襲われ、死んでしまう可能性を考えなきゃならんかったんだ。実際、沢山の奴らが死んじまった。目の前で怪物に殺されるのを見た奴らは多いだろう」

「…………」

「だからこそ、あいつらはこんなに馬鹿騒ぎしてるんだ。死を目の前にしたからこそ、今自分が生きてるんだってことを自覚するために。……まあ祭り事が好きで騒いでるのもいるだろうし、家族が死んで騒ぐどころじゃない奴ももちろんいるがな」

 そう言ってチラリとアレンは視線をカンナから逸らして別のところを見た。アレンの視線の先には、見つかった死体を安置しておく場所がある。今ある数は百体そこらだったはずだ。

 これから暫くの間、街の瓦礫を撤去していきながら死体を探すことになるのだろう(魔法で生命体を探知するものがあるため、生存者は既に探し終わっている)。死体を探し出し、全て墓に入れる。

 カンナもその手伝いをしたいと思いながら辺りを見回す。誰も彼もが騒いでいるが、確かに冷静になってみれば微妙な違和感のようなものがあった。無理矢理にでも明るくしよう、ポジティブな考えを持とうとしているような、そんな風に見える。

 まあそれでも半分近くは楽しそうに騒いでいる。今もニーズルベガがラルクと腕相撲をして圧勝していた。

「まあ、カンナも「ってはあぁぁぁぁ!?」ってどうしたいきなり?」

 突如叫び声を上げたカンナにアレンが驚くが、カンナとしてはそれどころではない。

 ニーズルベガ、魔人の王が、カンナの父親がここにいるのは明らかにおかしい。異常だ。カツラでもしているのか銀髪ではなく、黒髪だが、自分の父親を見前違えたりはしない。

「急用ができました! ちょっとぶん殴ってきます!」

「ぶん殴る!? 待てカンナ、お前そんなキャラだったか!?」

 アレン程度ではカンナは止められない。

 ニーズルベガが夜空の星となるまで、後五秒だった。

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