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親は子に勝てず

「カンナさんが……魔人?」

 信じられない事実を教えられ、ジンは思わずカンナの表情を確認してしまう。だが当のカンナの表情に変化はなく、今は乱れた息を整えているところだった。

「色々事情があってな。魔界にはいられなくなったから仕方なくこっちに逃がしてたんだが、こんな所で会えるとはな」

 よっこいしょ、と言いながらニーズルベガは立ち上がる。そのまま両腕を広げカンナに近づいていく。

「カンナー! 久しぶりに会えて俺は嬉しぶげぇ!?」

 ボッゴォ!! と、カンナの肘打ちがニーズルベガの腹へと突き刺さる。ジンの斬撃を幾度となく弾き返したニーズルベガが腹を抱えながらあっさりと膝をついた。

「……お父さん。なんでお父さんがこっちがいるの?」

「か、カンナ? そらーお父さんだぞー久しぶりだぞー?」

「うん、久しぶりお父さん。ところでお父さんの子供を名乗る人たちがこっちに来て色々やってるんだけどどういうことなの?」

「あーいや、そのだな……」

「お父さん言ってたよね? 魔界の問題は確かに深刻だけど、人間たちの世界に攻め込むのは絶対に違うって。なのになんでこうなってるの? しかもあの人たちお父さんの子供でしょ? 何してたの?」

「お、落ち着け。落ち着くんだカンナ。ちゃんと事情はあるんだ。てか、どっちかと言えば俺は止めに来てたんだよ」

「……でも、私に戦いを挑んできましたよね。止めるどころか激化させてますよね」

「え、あ、いやだな。やっぱり男というか一人の戦士としては、強い奴と戦ってみたかったつーか……」

「要するにただの戦闘狂じゃないですか……」

 呆れて溜め息をつくジンを他所に、魔人親子は何やら話し合っている(というよりは、カンナが一方的にニーズルベガに詰問している)。暫くし、ニーズルベガは溜め息をつきながら両手を上げてジンの方へと顔を向けてきた。

「……今日のところは帰る。また今度来るから」

「っていやいや、なんで貴方帰ろうとしてんですか。てか何もなくそのまま帰れると思ってるんですか」

「大丈夫だって! ちゃんとまた説明しに戻るから! ほらカンナ、後は頼んだぞ!」

 そう言うとニーズルベガはどこかへと走り去っていく。魔法で魔界に帰ると思っていたのだが、こっちの世界でやることでもあるのだろうか?

 追いかけていくべきか少し悩んだが、向こうが大人しく引いてくれるなら刺激しない方が良いとジンは判断する。力づくで追い返そうにも、ジンでは彼に勝てない。

 何より、とんでもなくデカイ問題がジンの目の前に転がっているのだから。

「……えっと」

 カンナになんて声をかけるべきか、何を聞くべきか。

 ジンがそんなことを考えていると、カンナがジンに向けて頭を下げてくる。

「……すいません。今まで黙っていて」

「え? あーいや、そこはまあ別に構いませんよ。そもそもうちには素性が分からない人たちが沢山いますし、カンナさんが魔人だからってどうこう言うつもりはありませんよ」

 驚きはしましたけどね、とジンは付け加えながら笑う。笑いながら、ジンはカンナの魔力を見る。

 確かに、カンナの魔力は人間にしては膨大だ。確かに特異なことではあるのだが、だからと言ってニーズルベガに勝てるかとなったら無理だろう。

 それに、なんというか、ニーズルベガからはラーシャと同じものが感じ取れた。魔力ではない、別の力を。

(……あくまで、魔人としての力って話ですかね? それともカンナさんがまだ未発達だから?)

 考えても答えは出ない。そして考えて分からないことを延々と考え続けるのは時間の無駄だ。今は他にやるべきことがある。

「カンナさん。街を飛び回っていた怪物たちはどうなりました?」

「ええと、誰かが光魔法でも使ったのか、私の分かる範囲の怪物たちは全員光線にやられてました」

「光魔法? ラーシャ辺りが何かしたんでしょうか? ラーシャの考えはよく分かりませんねぇ。手伝ってくることもあれば傍観することもあるし」

 とりあえず、と言いながらジンは歩き出す。

「街に戻りましょう。皆さん頑張ったとはいえ、流石に被害無しってわけにはいきませんでしょうしね」

「……あの、ジンさん!」

 ジンが足を止めて振り返る。カンナは不安そうな顔のまま頭を下げてくる。

「私が魔人だってことは、他の人たちには黙っていてもらえないでしょうか? その、特にサクラには」

「……別に構いませんよ。まあカンナさんが魔人だからってどうこう言う人たちではないでしょうが、私から話していいことでもありませんしね」

「……ありがとうございます」

「……お礼を言うのでしたら、少し頼みがあるのですが」

 ジンはそう言いながら笑みを浮かべカンナの方へ足を踏み出した瞬間、その場で地面に倒れた。あまりにも自然な動きだったので、カンナの反応が遅れる。

「……すいません。正直もう体が動きません。というかさっきの人の拳を受け流しただけで体がボロボロなんです。街に運んでもらえませんか?」

「だ、大丈夫なんですか?」

 カンナはジンの元へと駆け寄って手を伸ばす。ジンがその手を掴むと、カンナは勢いよく引っ張って立ち上がらせた。体を支えながらカンナは転移の魔法を使うべく呪文を唱える。

 それは、カンナには教えてないはずの魔法だった。

(……やれやれ。頭が痛くなってきました)

時空転移ライトニング

 直後、二人の姿が消えた。

 後に残ったのはジンが作り出した剣や剣のの欠片程度だったが、それらもジンが離れると同時に消えていった。

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