魔王の娘
ある時、とある姫は傭兵に聞いた。
「もし、絶対に勝てない人と会ったらどうするんですか?」
「逃げる」
「即答!?」
「当たり前だろ。勝てない相手に勝ちにいくなんて馬鹿馬鹿しいにもほどがある。無茶と無理を履き違えないよ俺は」
そう言った直後、傭兵はこう付け加える。
「……まあ、引き分けに持ち込むくらいはするけどな」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
ギインッ! と金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。
聞き慣れた音ではある。ただし、ぶつかり合っているのは剣と拳だが。
(なんで拳でそんな音するんだふざけんな!?)
「ぬうんっ!」
「ごあっ!?」
ニーズルベガが腕を振り払う。剣の刃が砕け散り、ジンの体が宙に浮いた。ニーズルベガはコキコキと首を鳴らしながらジンに向けて言う。
「どうした人間! ちょっと軽すぎるんじゃないのか!」
「……お前が」
宙で体勢を整え、ジンは腕を振るう。
「馬鹿力なだけだろうが!」
直後、総数百本にも近い剣が生み出され、ニーズルベガへと飛んでいく。
そのどれもが全力。一本で魔人の生み出した怪物を穿ち、空間さえも切り裂く力を持った刃だ。
だが、対するニーズルベガはニカッと笑い、拳を構える。
「違いねえや!」
そう言い放つや否や、ニーズルベガは飛んできた剣全てに拳を叩き込んだ。金属音が鳴り響き、ジンの放った剣が全て打ち負け、砕け散っていく。
「っと。飛び道具とは趣味が悪いな。男なら拳一つ身一つで勝負だろうよ」
「お前を殴ったら間違いなく俺の拳が粉々になるつーの」
軽口を叩きながらも剣を生成する。剣の名は『フツヌシ』。ジンの作れる剣の中で、単純な威力では最高クラスを誇る剣だ。
(これで駄目でしたらもうどうしようもなくなりますね。魔界に押し返しても、門はつくれると言ってましたから、結局戻ってくる可能性がありますしね)
「どうした人間」
ニーズルベガは拳を構え、腰を深く落とした状態を取る。
「来いよ。避けねえで全部受け止めてやる!」
「っ! 舐めんな!」
剣を構え、全体重を乗せた全力の一撃をニーズルベガへと放つ。それと同時に足の先に同じ剣を生成する準備をし、更に後ろからも剣が襲いかかるように一振りの剣を作り出す。
(腕を使えば足が切り裂く。片手でそれぞれ受け止めても、がら空きの背中を切り裂く。避けなかったことを後悔してください!)
視線は動かさない。手も抜かない。全力で攻撃をしつつ、相手にこちらの意図を悟られないようにする。
気づけるはずが無い。そのはずなのに、
「…………」
ちらっと、ニーズルベガの目が後ろへと向いた。ジンが作り出した剣の存在に気づいたかのように。
(……だが!)
それでも気にせず、ジンは斬撃を叩き込む。例え気づいたとしても遅い。二発を受け止めたとしても、三発目がニーズルベガを切り裂く。相手には腕が二本しかなく、二発までしか受け止められないのだから。
だが、ニーズルベガはジンの予想を超えてきた。
「ぬんっ!」
「なっ!?」
ニーズルベガは頭を少し後ろに引き、勢いをつけて剣へと叩きつけてきた。ジンの剣と少しの間せめぎ合い、ジンの体を吹き飛ばす。
吹き飛ばされる直前、ジンは足先の剣をニーズルベガへと蹴り飛ばした。それと同時にニーズルベガの背後にあった剣が襲いかかるが、ニーズルベガは拳を振るって両方の剣を叩き落とす。
ジンが体勢を整えつつ着地すると、ニーズルベガは何か納得のいかなさそうに首を傾げていた。
「……んー、なんかさっきから随分と小賢しいことをしてくるな。お前さん、普段はもっと真正面から戦ってるだろ。なんで俺にもしてくれないんだ?」
「……お前みたいな化け物と真面目にやりあってたまるかっつーの」
言いつつ、ジンは地面に触り、剣を作り出す。生成する場所はニーズルベガの立っている場所。真下からニーズルベガを切り裂こうとする。
「化け物ねえ。そう呼ばれるのは少しばかり心外だな。俺なんて魔界では二番目なのに、一番の奴はなんて呼ぶことになるんだ? 魔人じゃなくて魔神とでも呼んでやるか?」
だが、ニーズルベガはその場で足を思いっきり地面を踏みつけた。直後、地震のごとく大地が揺れ、ジンの生み出した剣が粉々に砕け散る。
「……お前で二番とか、冗談キツすぎるぞ」
「冗談じゃねえんだこれが。その証拠にほれ、俺の髪は銀色だろ?」
「…………?」
意味がわからない、とジンは首を傾げる。魔人たちの髪は皆銀色のはずだ。ニーズルベガが魔界で二番目である理由が銀髪だと言われてもさっぱりだ。
「知らねえのか? 魔人ってな、生まれた時は全員金髪なんだぜ。魔界で過ごしているうちに、金の髪が魔界の空気に汚されて銀色に変わっちまうんだが、とんでもなく強大な魔力を持って生まれた魔人の髪は魔界の空気に汚されることなく金色のままなんだ」
ジンと戦うことに飽きたのか、ニーズルベガはドサリと地面に座り込んで喋る。その姿はとても無防備に見えるのだが、切り掛かっても剣が砕ける未来しかジンには想像できなかった。
「んで、そんな奴がいるから俺は二番目だ。銀色に染まっちまう程度の魔力の俺じゃあ、金色のままのあいつに勝てるとは思えねぇ。……まあ、娘に負けるなら親としては嬉し――」
「ジンさん!」
ニーズルベガの台詞に割り込んで誰かがジンの名前を呼んだ。声のする方を向くと、ハアハアと息を切らしながら立つカンナの姿があった。
「カンナさん、なんでここに!?」
「カンナじゃねえか! 久しぶりだなぁおい!」
「……え?」
「あ? ……ん?」
ニーズルベガが疑問の視線を向けてくる。なんでカンナのこと知ってるんだと目で聞いてきているが、それはこっちの台詞だ。なんで魔人の王とカンナが知り合いなんだ?
「……カンナとはどういう関係だ、人間」
「こっちの台詞ですが。なんで貴方がカンナさんのこと知ってるんですか」
「だってこいつ俺の娘だし」
「……はぁ? ……はぁ!?」
「だーかーら」
ニーズルベガはピシッとカンナの顔を指差しながら言う。
「こいつは俺の娘、カンナ・グランドングだよ。さっき俺が言ってた金髪の魔人で、魔界最強だ」




