語られない伝説・No.24
「……ふむ」
「どうしたんですかジャックさん?」
日は変わり、翌日の朝。
ジャックとナスタは街の中を歩いていた。
一日経ち、直った建物が突然崩れたり、怪物に化けて襲われたりしないと分かり、人々は戸惑いながらも元の生活に戻り始めていた。
市場の方を見れば、売り物に傷はないか、妙な物が入ってないかを必死にチェックする商人たちがいる。中にはチェックしない代わりに安く物を売る商人もいたが、ジャックが見る限り商人は嬉しそうにしている。在庫品を売りさばくチャンスとでも思っているのか。
「いや、昨日……つーか今日? お前にも見せた剣あるだろ?」
そう言いながらジャックは腕を振るう。すると黄色の剣……ではなく、小さなダガーが現れた。
更に光るダガーに緑色のダガー、青色のダガーなどを作り出し、ジャグリングしながら言う。
「こんな感じに大きさ変えて色々試してみたんだけどさ、どうも見た目以外にも変えられる物があるらしい」
「例えば?」
「性能。普通に作れば何かをそのまんま操る武器になるんだけど、ちょっと弄れば別の性能になる」
そうだなー、とジャックは言いながら空を見上げ、ジャグリングしていたダガーを空高く放り投げる。
「――刃を収束、展開。数百の刃に分かれ、大空を飛翔する力となれ」
ジャックの台詞に合わせ、ダガーの刃がバラバラになった。それらはジャックの背中の辺りに集まると、少しずつ形を成していく。
やがてそれらは一対の翼となり、ジャックの意思に呼応するかの如く動き出す。
「これなんかも一例だな。色んな剣を組み合わせて全く別の性能の剣を作り出したんだ。見ての通り、これは空を飛ぶ性能を持った剣だ。前に一回見た飛翔を参考にさせてもらったぞ」
「……ところで、さっきの台詞には何の意味が?」
「剣を作る時にイメージしやすいから言ってるだけだ気にするな」
そう言いながらジャックは肩を軽く叩く。すると翼はボロボロと崩れ落ち、光の粒子のような物となって消え去った。
「……しかし、結局何なんですかねそれ? 街がいきなり直ったのと関係してるんでしょうか?」
「ん? あー……まあいいんじゃね。使えるもんなら使っちまえば」
「危なくないですか? 急に得体の知れない力が手に入って、暴走でもしたら……」
「それはないから平気よ」
「えっ!?」
ぬるり、という音が聞こえてきそうな感じにラーシャが現れた。ナスタは驚きの声を上げるが、ジャックは微動だにしていない。
「ら、ラーシャさん。急に出てくるのやめて下さいよ……」
「あらごめんなさいね」
「ラーシャさんのも何なんですか? 魔力とか全く感じないんですけど……」
「おいラーシャ」
ナスタがラーシャの力について聞こうとした瞬間、ジャックが口を開いた。顔は俯きがちで、表情は見えない。
そんなジャックから何かを察したのか、ラーシャも珍しく真面目な顔となる。
「あら、どうしたのジャック? 貴方から依頼されたナスタの隠し撮りなら……おっと」
「おいごらてめえここは真面目なところだろうが何いきなりぶち壊しにかかってんだ!?」
雰囲気は一瞬で粉々に砕け散った。
隠し撮り、という単語にナスタが反応して両腕で体を隠すようにしながらジャックから距離を取り出す。
「じゃ、ジャックさん! 隠し撮りっていったいなんですか!」
「お前も信じるな馬鹿!」
「隠し撮り、またの名を盗撮。被写体や対象物の管理者に了解を得ずに撮影すること。因みにジャックから依頼されたのは入浴のナスタ王女様を撮影すること」
「お前も嘘ぶっこくな殺すぞ!」
割と本気で怒っているのか、とんでもない殺気が辺りへと放たれた。何の騒ぎだと見ていた近くの野次馬たちがバタバタと倒れていく。
それを受けても余裕なラーシャと、そんな殺気に気づけないくらい慌ててるナスタには効かなかったが。
「……つーか、なんでナスタは撮影の言葉の意味がわかる。カメラはラーシャが作ったものだし、撮影はラーシャが作った造語だし。ラーシャの奴にカメラでも見せてもらったのか?」
「え!? あ、いや、ちょっとその……」
「ジャックが寝てる間に色々あったのよ。ねぇナスタ」
「え、あ、はいそうですそうなんですあははは……」
「……ああ、撮影会か」
乾いた笑い声を上げるナスタを見て、ジャックは色々と察した。
「……って誤魔化されませんよ! ジャックさん、隠し撮りってなんですか!」
「だから信じるなって言ってるだろうが! ラーシャの顔見てみろ、お前の反応見て楽しんで……っていねえ!? いつの間に!?」
「ジャックさん! ちゃんと話してください!」
「お前も人の話聞け! ……ってこの感じ、あいつ仕込みやがったな」
「ジャックさん!」
「あーもう面倒だなおい!」
ギャーギャーと騒ぐジャックとナスタから少し離れた場所の建物の屋根から二人を見て、ラーシャは呟く。
「……もうあそこまで力を使いこなすのね。私が近づいたことにも気づいてたし、やっぱり貴方は凄いわね」
杖をクルリと回転させ、ラーシャは空を見上げる。
「その才能を正しく伸ばすのが、私の仕事ね」
直後、ラーシャの姿が消え去った。
まるで、最初からいなかったかのように。誰にも気づかれることなく。




