拒絶の剣
ジンが八百万の剣を顕現させた時、アレンの体にも変化があった。
ギンッ! と金属と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。
アレンの鎧とヴォルフの剣がぶつかった音、ではない。アレンの鎧は先の攻撃で既に粉々に砕けていた。
ならばなんだと思い、二人の視線自然と音源に向き、その顔が驚愕に満ちた。
「なっ……!?」
「チッ! そんな大道芸を持っていたか!」
アレンの腹部。そこから一本の剣が出てきていた。アレンを切ることなく、刃が中途半端に腹から伸びている。
ヴォルフが後退して距離を取っている間にアレンは立ち上がり、腹の剣を思い切って引き抜く。
特別な装飾もない、普通の剣だった。だが刀身は薄っすらと青白い光を放ち、不思議とアレンは光に安心感を感じる。
「この剣、どこかで……」
剣を持ちながらふと記憶を探り、少しして思い出す。この剣は、王都の城の地下でジンが昔ナスタに渡した物だ。
(確かあの時その剣の力を与えてきたような……これがか?)
ジンは『拒絶』の力が込められていると言っていた。だが、アレンには剣から何も力を感じ取れなかった。剣は刀身が青白く光っているだけで、魔力も感じない。
どうすればいいんだと悩んでいたアレンだが、今はそんなことを考えている時ではないと思い直し思考を断ち切る。
ヴォルフは剣を警戒しているらしく、先ほどから動いていない。ヴォルフ自身の力があまり残ってないのも関係しているだろう。
(……とはいえ、俺もだいぶ消耗してるからな。勝てるかどうかわからん)
身体中に走る痛みを気合いで堪え、悟られないようにしながらヴォルフを睨みつける。
剣を両手で構えるアレンと、剣を警戒するヴォルフ。奇妙な膠着状態が続いた。
だが、ピクンとアレンの持つ剣が跳ねたのと同時に、ヴォルフが突如アレンから視線を外した。
「ヴァージリア!?」
それが致命的な隙となった。
「っ!」
その隙を逃すことなく、アレンが突撃した。剣を大きく振りかぶり、大地ごと割る勢いで剣を振り下ろす。
だが、ヴォルフは、笑っていた。笑って、アレンの斬撃を受けた。
しまった、と思いつつも斬撃は止まらない。剣はヴォルフの体を引き裂き、血飛沫を撒き散らさせる。
「――殺したな」
横に半分に裂けたヴォルフの口が動き、言葉を紡ぐ。
「俺をコロシタナ?」
直後、飛び散った血飛沫がアレンの体に纏わり付いた。血はまるで縄のようにアレンを縛り上げ、身動きを取れなくする。
「魔装、血縛」
いつの間にかアレンの横に立っていたヴォルフはそう呟く。その体に傷はなく、五体満足だった。
「……ヴァージリアがやられたようだ。そろそろ終わらせてもらう」
ヴォルフは剣を横振りし、今度ことアレンの命を刈り取ろうとする。
直後、アレンの持つ剣が光り輝いた。
今までも薄っすらと光ってはいたが、そんなものとは比にならない光だった。
光はアレンを縛る血を照らし、溶かした。更にはヴォルフの剣を照らした直後、剣が大きく跳ねた。まるで、光に弾き飛ばされたかのように。
ヴォルフが驚きの顔を見せる。アレンも驚きはしたが、ヴォルフよりも早く動き出す。
「これで」
力を込め、魔力を込め、気合いを込め。
「――終わりだ!」
圧倒的力を持って振り回す。
ヴォルフの体に剣が斬り込んだ。直後、剣がまたも光り輝き、ヴォルフの体が爆ぜた。
疑いようもなく、ヴォルフは死んだ。辺りに散った肉片が集まって再生、なんてこともなかった。
息を荒くしながらアレンは暫く立ち尽くし、やがてその場に倒れた。
傷が酷い。治せないことはないが、すぐに動き出せるものではなかった。
「…………」
仰向けに倒れながら、アレンはその手に未だある剣に視線を向ける。それが合図だったかのように、剣は光となり、アレンの体に入り込んだ。
何度か手を閉じたり開いたりしながら、アレンは呟く。
「ったく、ジン。お前の力はとんでもないな」
間違いなく、アレンでは勝てなかった。
勝てたのは、ジンに貰った力のおかげだ。
そのことを受け止め、空を見上げながらもアレンは体の傷を治しにかかる。
まだ、終わっていない。




