剣の王
「ははははは! あはははははは!」
ヴァージリアの集団に突っ込み、走り抜けながらその肉体を切り裂く。
「飛翔」
ジャックの背中から刃で作り上げられた歪な翼が生え、ジャックに空を飛ぶ力を与える。
空中で軌道を変え、剣を自在に操ってヴァージリアを十人ほど切り裂いた。その顔は血で赤く染まり、その血をジャックは舐め、笑う。
「ははははは、ははははは!」
「楽しそうにしやがって……!」
荒い口調になりながら、ヴァージリアは次々と自分自身を作り上げていく。ネズミ算でドンドン増え、既に数は百人を超えていた。
だが、
「獄炎」「斬魔」「水魔」「雷光」「爆滅」「千の剣よ」
圧倒的物量で攻め落とそうとしても、ジャックは炎を振り払い、風の刃を軽々と受け止め、水を弾き飛ばし、雷を剣で吸収し、降り注いだ隕石と剣を薙ぎはらう。辺りはあっという間に更地となるが、ジャックは未だ傷を負うことなく戦い続けていた。
「どうした魔人! その程度で俺らを倒そうってか! 笑わせんなよ!」
「……っ! 舐めるな!」
ヴァージリアの一人が地上に降り立ち、地面に向けて杖を叩きつける。
直後、大地の一点が突然膨れ上がり、爆発した。出来上がった穴からはマグマが溢れ出し、勢いよく撒き散らされる。
「高温の熱に飲まれろ!」
ヴァージリアが杖を振るうと、マグマがまるで蛇のように動き、ジャックに向けて襲いかかった。
だが、
「コノハナノサクヤ」
ジャックが右手をマグマへと向けると、ピタリとマグマの動きが止まった。ジャックは腕を伸ばし、マグマへと手を入れ、勢いよく引き抜く。
「荒ぶりし炎を鎮めろ」
現れたのは、赤き長剣。ジャックがマグマから長剣を引き抜いたのと同時に、マグマが冷え出し、岩となった。
「っ!」
「風より出でよ、荒ぶりし神」
ジャックが左手を掲げると、左手を中心に暴風が渦巻いた。
「スサノオ」
暴風が収まるのと同時に、一振りの剣が現れる。黄色の剣を軽く振るうと、ジャックを中心に風が吹き荒れる。
「そーら行くぞ今行くぞっと」
ジャックは軽い調子でそんなことを言い、トンッという軽い音と共にその姿が消え去った。
直後、五十体のヴァージリアが斬り刻まれた。四肢がバラバラに引き裂かれ、首が宙を舞う。
「……っははははは!」
楽しそうに、ジャックは笑う。
肉を裂き、骨を砕き、自分自身をさらけ出して。
ジャックは笑う。
「……楽しませろ」
二本の剣を放り捨て、ジャックは叫ぶ。
「もっと楽しませてみろ! 俺を、この俺を! 全力で叩き潰してみせろ! その力を俺に叩き込め!」
「くっ!?」
ヴァージリアの顔が恐怖で歪む。それは、殺されることに対する恐怖か。それとも、狂気の笑みを浮かべるジャックに対する恐怖か。
そんなことを少し考え、即座に投げ捨てる。
どうでもいい。
些細なことだ。
それが、何に対しての恐怖なのかなど。
重要なのは。
「世界に満ちる森羅万象よ」
ヴァージリアが恐怖に飲まれたということ。
本気の殺し合いをすることが、できなくなったということだけだ。
「イザナギの名において命ず。八百万の剣となって顕現せよ」
ジャックの周囲の空間が歪んだ。
歪みから大量の剣が飛び出してきた。剣はジャックを護るように囲い、クルクルと回転する。
その内の一本を掴み取り、ジャックはヴァージリアに向ける。
「タケミカヅチ」
それに合わせ、八百万の剣の全てがヴァージリアに向く。ヴァージリアたちが慌てて何かしようとしたが、それが具現化される前にジャックは剣に命ずる。
「その剛力、八百万の剣に分け与え、全てを砕く力を与えろ」
直後、全ての剣がヴァージリアに向かって飛んで行った。
ヴァージリアが岩を作り出したが、巨岩をあっさりと砕き、ヴァージリアの体を貫く。
一体に千本どころか一万本を剣が飛び、ヴァージリアの体を切り刻んだ。
「あ……あ」
呻くような声が聞こえ、ジャックは右手を空へと、――太陽へと向ける。
「出てこい。八百万の頂点にして太陽を司る女神よ。剣となって顕現し、我が敵を灼きつくせ」
光が、視界を埋め尽くした。
圧倒的熱量がヴァージリアの体を貫き、その体を蒸発させた。
「……つまらん」
光り輝く剣を持ったジャックは、つまらなさそうに呟く。視線の先には、辛うじて生き残ったヴァージリアが一体いた。魔法を行使する余裕さえないのか、そのまま地面に膝をつく。
「……これが、英雄様の実力か」
「……英雄、ねぇ」
つまらさそうに、ジャックは目を細めた。
「俺が英雄だなんて、似合わなさすぎる」
剣をヴァージリアに向けながら、ジャックは自嘲気味に呟く。
「俺は、いや、私は殺人鬼で充分ですよ」
口調を変え、ジャックは穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「さようなら。次に会う時は、もっと手応えのある敵になっていることを。私を殺すことができるくらい強くなっていることを願っています」
剣から光が発せられた。
光はヴァージリアの頭を貫き、その命を刈り取った。あまりの熱量にヴァージリアの死体が爆発し、肉片が撒き散らされた。
「……誰か、私を殺してくれませんかね」
そんな呟きを残し、ジンは空を仰ぎ見た。
まだ全部終わっていない。
やるべきことを、やり遂げる必要があった。




