魔人たちの襲来
遅れてすいません……
次の日の朝。
ジンはで畳に横になった状態で目を覚ました。
「……っと」
頭を振りながら体を起こす。周りを見るとジン以外にもカンナやアレンたちが畳で横になって寝ていた。
……いや、違う。これは寝ているのではない。
これは気絶しているのだ。
「えーと、何があったんでしたっけ……」
ジンは長い髪を弄りながら昨日のことを思い出そうとする。のだが、昨日の記憶はまるで靄がかかったかのように思い出せない。まるで脳が思い出すことを拒否しているようだった。
なんとなく分かることは、
「確かラーシャが何かして……そうだあいつが暴れ出して……そこから記憶がない」
念のためジンは自分の体やカンナたちの体を調べてみるが、特に魔法が使われたような形跡はなかった。
だが魔法が使われていないからといって油断してはいけない。あの変態ならば、魔法など使わなくても超常現象くらい起こせそうなのである。
警戒しながらもジンは全員を起こす。起きた瞬間発狂する可能性もあるので全力で警戒しながらだ。
「……ぬぅ」
「……っと、なんで私ここで……」
起き上がった人たちに昨日のことを聞くも、やはり全員昨日のことを覚えていなかった。
「……いったい何をしたんですかラーシャ」
溜め息をつきながら外を見る。もう太陽は上りきるどころか真上にいた。
「とりあえず何か食べに行きましょう。全員が飛び入りで入れる店はないでしょうから、幾つかに分かれて好きなものを食べてください」
ジンがそう言うとアレンたちは三つほどの組に分かれていく。ジンもどれかに混ぜてもらおうと思った、その時だった。
誰かが廊下を慌ただしく走る音が聞こえ、部屋の扉が勢いよく開けられる。
「ジャック殿! ジャック殿はいますか!?」
「貴方は確か、バンさんですよね?」
部屋に入ってきたのは、昨日ラーシャの魔力に当てられて気絶した兵士バンだった。
バンは息を整え、そして叫ぶ。
「魔人が、魔人が攻めてきました!」
「はっ!?」
ジンが思わず驚きの声を上げてしまう。バンが少しビクつきながらも激しく頷く。
「ラスーナという村……ええと、とにかくここから南ので大量の魔人が確認されました! 今兵士全員で向かっていますが、至急ジャック殿にも応援をと!」
バンの言葉を聞きながら、ジャックは先日会った少年の言葉を思い出す。
「何が一週間後ですか。幾ら何でも早すぎるでしょうに……」
呟き、気持ちを入れ替えるために頭を振る。落ち着きを取り戻しながらジンは聞く。
「数はどれくらいですか? 十ですか? それとも百ですか?」
だが、取り戻した落ち着きはバンの一言によって消え去ることになる。
「……一万」
「………………は? あの、今なんて?」
「正確に数えたわけではありませんが、魔人たちの数は、少なくとも一万は超えているとのことです」
「…………………………………………へ」
乾いた笑みが浮かぶ。それはジャックだけではなく、この場にいる者たち全員がそうだった。
ヴァージリアやヴォルフと同じくらいの力を持った、魔人が一万。
たった一人で国を滅ぼすこともできると言われている魔人が、一万。
直後。
殆どの者たちが、現実を受け入れられずに気絶した。
ジャックたちが泊まっている旅館、の屋根。
一人の少年が、微笑を浮かべながら屋根に腰掛けていた。
「……ま、全部教えるのなんて不公平だもんね。ジャックたちには驚いてもらうことにしたよ」
少年の隣。銀の杖を持った女性が少年に話しかける。
「相変わらずね、貴方は」
「僕が変わるわけがないじゃん。僕が変わる時が来るとすれば、世界が終わる時くらいだよ」
「私たちは基本的に人間にも魔人にも不干渉な筈だけど?」
「何事にも例外はあるし、僕が結果には干渉してないよ。あくまで避けられない出来事を早めに起こしているだけなんだから。君みたいに結果に干渉はできない」
少年の言葉にを聞き、女性は溜め息を吐く。少年はそんな女性を見て笑う。
「……行くんでしょ?」
「ええ。私は貴方と違って結果に干渉できるものね。魔人を倒すつもりはないけども、人間を見殺しにするつもりもないわ」
暫しの沈黙が訪れる。そして少年が囁くように女性に言う。
「じゃあね、ラーシャ」
「また会いましょう、お父様。いえ、世界の意志よ」
直後、女性の姿が消え去り、少年が一人取り残される。
少年は微笑を浮かべながら、魔人たちの行いを見ながら呟く。
「さてさて、君は、いや、君たちはどうするのかな?」




