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剣を求める

 なんというか、居心地が悪い。

「ヤイバ、ちょっとそこのお茶菓子取って!」

「えー! どれのこと!?」

「そこの銀色の箱に入ったの! えーとえーと、お茶の入れ方は合ってるわよね……」

「姉ちゃん、これよりこっちの方が良くない?」

「それあんたが好きなだけでしょうが!」

「いやあの、ほんとお構いなく……」

 ジンは今、ユウキと名乗る少女とヤイバの名乗った少年の部屋にいた。というか、有無も言わさずに連れ込まれた。ユウキの身体能力は見た目以上に高かった。

 そしてその二人は何やらジンをもてなす為に色々準備しているようなのだが……。

「ってヤイバ! あんたそんなもん持ってどうするつもりなの!?」

「……真剣白刃取り?」

「それやるのヤイバじゃな……やめなさいヤイバ!」

 ジンの背後に、ヤイバは立っていた。会話を聞く限りだと、木刀か何かを持っていて振り下ろすつもりなのだろう。

(……不意打ちのつもりかもしれないけど足音消してないから近づいたのすぐに気づいたし鼻息荒いからそれ以前の問題だしというかそもそも真剣白刃取りってそれただの魅せ技というか遊びであって実戦でそれやる必要は皆無というかそんなことできるなら相手にカウンターを食らわせろというか……)

 ツッコミどころが多すぎてそんなことを思うジン。

 そうこうしていると、ヤイバが武器を下ろした。ジンは心の中で溜め息を吐きながら振り返らず、武器を人差し指と中指で挟み込んで受け止める。

 指が冷たさを感じ取る。そのまま余裕を見せてやろうと思ったジンは出されたお茶を飲もうとして、ふと気づく。

 木刀って、こんな鉄みたいな冷たさ持ってたっけ?

(……いやいやまさかまさか、真剣白刃取りとは言ってたけど木刀か何かでしょうそうなんでしょう?)

 ジンはそう自分に言い聞かせながら振り返る。


 ジンの指は鉄、つまり刃を挟み込んでいた。受け止められたヤイバは目を輝かせている。


(本物かよ!? 危なすぎるしなんでこいつこんなもん持ってんだよ!?)

 心の声がジンではなくジャックに戻っているが、顔は笑顔のままだ。ヤイバからは余裕綽々で剣を受け止めたように見えているだろう。

 これが子供でよかった、とジンは思う。こんなのちょっと剣が動いただけでジンの指が切れる可能性があるし、剣に毒でも塗っていたらそれで御陀仏だった。

(実戦でやる人の気がしれませんねほんと……)

 落ち着きを取り戻し、ジンはそのまま剣を指を使って奪い取る。

「駄目ですよ、こんな危ない物を振り回しては」

「ヤイバ!」

 ユウキがヤイバの体を持ち上げジンから距離を置かせる。ユウキはそのまま土下座でもしそうな勢いで謝り出す。

「すいません! 本当にすいません! 弟がほんとすいません!!」

「いや、そんなに謝らなくていいですから……」

「ジャックさん、僕に剣を教えてよ!」

 そして空気の読まないヤイバがそんなことを言い、ユウキが拳骨を振り下ろした。骨と骨がぶつかる音がし、ヤイバがその場で崩れ落ちる。

「謝るのが先でしょう!」

「……ご、ごめんなさい……」

 こういう時どう反応すればいいのか分からないジンは、曖昧に笑うしかない。とりあえず適当に咳払いしてみるが、それで何か変わるわけもなかった。

「……ええと、それでヤイバ。剣を教えてと言いましたが……」

「うん。ジャックさんなら剣の使い方誰よりも知ってるでしょ? どうせ教わるならお姉ちゃんよりジャックさんに教えてもらったほうがいいもん!」

「いや、単純な剣術なら私より上の方はかなりいると思いますけどね。というか、ユウキさんも剣を?」

 奪い取った剣をユウキに手渡しながらジンが聞くと、ユウキは割と全力でブンブンと首を横に振る。

「いえいえいえいえ! 私のは護身術程度ですから! 人様に誇れるものではないので!」

「そ、そうですか。だから剣を持ってたんですね」

 とりあえず、とジンはヤイバに向き直る。

「どうして剣を教えてほしいんですか?」

「僕も戦いたいんだ! おじさんたちが魔物と戦ってるのがカッコいいし、僕もあんな風になりたいと思ったんだ!」

「……そうですか」

 ジンはそう言い、そして立ち上がる。ヤイバを見下ろし、ニコリと笑う。

「駄目です。教えられません」

「えー! ケチ! ジャックのケチンボ!」

「ケチとかいう問題ではないので、駄目です」

 ブーブーと言うヤイバをユウキが押さえつけている間に、ジンはユウキに礼を言う。

「お茶、ご馳走様でした。これで失礼させてもらいます」

「今日は本当にありがとうございました。――そして本当にすいませんでした」

 ジンは軽く会釈をしながら部屋を出ようとし、途中で振り返る。

「ヤイバ。貴方がカッコいいと思った人たちに、なぜ強くなったのかを聞いてみてください」

 返事は聞かなかった。キョトンとしているようにも見えるヤイバをチラリと見たジンは、そのまま部屋から出て行った。

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