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語られない伝説・No.13

 龍の雄叫びが様々な場所から聞こえてくる。ジャックは悪態をつきながら街中を走り回る。

「くそったれ! 高い場所から延々と魔法を置いてきやがって!」

 ジャックの視線の先では、一人の竜騎士が魔法の詠唱をしていた。

炎落ナパーム

 竜騎士の手のひらから炎の球が生み出され、竜騎士は炎の球をぽいっと地上に放り投げる。

 炎の球は地面にぶつかると同時に爆発し、周りの物を吹き飛ばす。あちこちで悲鳴が上がる。

 竜騎士が使ったのは、普通の魔法とは違う特殊な魔法だ。威力を重視した結果、射程がなくなってしまい、爆弾のような使い方が主流になってしまった魔法だ。

 竜騎士や天馬騎士などの空を飛んでいる者たちが好んで使うのだが、……地上を走り回ることしかできない剣士たちからすればウザいことこの上ない。しかも弓も届かない位置から延々と落としてくるので、地上にいる者たちは逃げ回るしかないのだ。

「くそったれめ! 真面目に戦っても充分強いくせに!」

 そう言いながらジャックは走る。ナスタの元へ行き、飛行魔法で翼代わりになってもらうのだ。

(今のままじゃあどう足掻いてもあいつらを叩きのめせない。……ラーシャの奴は炎に紛れてどっかに行きやがったから、手を出すつもりはないみたいだし)

 竜騎士たちの魔法を喰らわないように避けながら全力で走る。一般人が逃げ回っているが、当然の如く無視する。

 人混みを避けるのも面倒なので、一気に飛び越えてしまおうとジャックが脚に力を込めた瞬間。

「わっ!」

 人混みから少女が弾き出される。地面に顔から突っ込み、立ち上がるのに少し時間がかかりそうだった。

 そんな少女の真上で、一人の竜騎士が魔法を使い、炎の球を落とした。

 他の人たちが一斉に逃げ出すが、少女は逃げ出すのが遅れている。

 数秒後にどうなるかなど、考えるまでもないだろう。

「――あーもう!!」

 ジャックは上に跳ぼうとしていた力の方向を前へと変え、一気に少女の元へと近づく。

 そのまま少女の腕を掴み取りながら再度跳躍する。その直後に、少女がいた場所に炎の球が落ちた。

「さっさと逃げろ!」

 少女は何度も頭を下げながら走り去っていく。そちらには見向きもせず、ジャックは空を見上げる。

 そこには自身の魔法を避けられたことに苛立つ竜騎士がいた。竜騎士が自身の乗りこなす竜に指示を出すと、竜がパカッと口を開いた。

「んげ!?」

 ジャックが慌てて逃げ出すのとほぼ同時に、竜の口から炎が、火竜の息吹(フレイムブレス)が放たれる。

 轟ッ!! と地面を炎が焼いていった。

 だが速度は遅い。ジャックに当たる気配がまるでない。

 ジャックがあっちこっちに逃げ回ると、竜騎士は痺れを切らしたらしく、竜に下降するように命令する。

 それがジャックの狙いとは知らずに。

「チャンス!」

 ジャックの跳躍力でも届く所まで竜騎士が降りてきたので、ジャックは両脚に力を込め、一瞬で竜の背中に降り立つ。

「な!?」

 驚く竜騎士の腰に差してあった剣を鞘ごと抜き取りながら、竜騎士の顔面に拳を叩き込む。ぐらついた竜騎士の顔を掴み、そのまま竜から投げ下ろす。

 竜がギャーギャーと騒ぎ出したので、ジャックは鞘で竜の頭部を叩く。竜はバランスを崩し、地面に向かって落ちていく。

 竜から飛び降り、剣を腰に差しながらジャックは呟く。

「……こいつは偶々倒せたけど、やっぱ面倒だなぁ。空飛ぶ奴らは」

 竜を落とさずに使えば良かったか、とジャックは思ったがすぐに首を横に振る。どうせあの手の奴らは、ご主人様以外が乗っても振り落とすように仕込まれているに決まっているのだ。

(さっさとナスタの所に行くか。このままだと被害がどんどん出るぞ)

 そう思い走り出そうとした瞬間。

「……ほう、中々やるではないか」

 声が、空から聞こえてきた。

「っ!?」

 ジャックは剣に手を当てながら空を見上げる。

 空には、真紅の鱗を持つ竜がいた。その背中には、竜と同じ真紅の色をした鎧を着た男が一人。その手には、これまた真紅の槍があった。

 その槍のことを、ジャックは知っていた。

 槍の名は『猛焔の紅槍(ロンゴミアント)』。槍から出る焔は、あらゆる敵を屠ることができると噂される、とある王族が代々受け継いでいる魔法の槍だ。

 そして、その王族というのは……。

「はじめまして、傭兵殿。我が名は竜騎士王ファルムニル・ドラブラント。我が乗るこの竜の名はニルヴァルナという」

「……………………………………………………………………………………………………」

 ふざけてる、とジャックは言葉にならない呟きを漏らした。

 あれは違う。規模が違いすぎる。こんな事のためにあれを持ち出すなんて馬鹿げてる。子供の喧嘩を止めるために国一つ崩壊させるようなものだ。しかも実際にあれが使われたら、国どころが大陸一つが丸々吹き飛ぶ。あれはそういった類の物だ。

 生存本能が逃げろとジャックに叫ぶ。だがそれと同時に、理性がこう言ってくる。

 どこに逃げろと?

「……っ!」

 あれを使われたら全てが吹き飛ぶ。今更逃げたところでどうにもならないのだ。

 つまり、ジャックが取るべき行動は一つ。

(……殺す)

 ナスタと交わした約束など忘れて、ジャックは心の中で叫ぶ。

(使われる前に殺す! どちらにせよあれは威力が強すぎるんだ! 自分諸共吹っ飛ばすなんてこと相手も早々しないはずだ!)

 殆ど自分に言い聞かせるように思いながら、ジャックは剣を引き抜く。

 対してファルムニルは、静かに槍をジャックへ向ける。自然と意識がそちらに行きそうになるが、ジャックは視線をファルムニルに固定する。武器の行き先を見るよりは、相手の目を見た方がまだ動きが判断しやすい。

 ファルムニルは感心したように少しばかり笑う。笑いながらも、その手には力が込められていく。

「……行くぞ、傭兵!」

 直後に、竜騎士王と傭兵が激突した。

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