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亀裂

 カンナとサクラとアレンは外に出ていた。

 全身が包帯で巻かれているアレンなのだが、それを隠すために現在プレートアーマにサーリットを付けている。

 はっきり言って、凄く目立っている。包帯を隠さずに歩いた方が目立たないんじゃないかというレベルで。

 そんなことを全く気にせずアレンはサクラに話しかける。

「それで二人とも、何を買うんだ?」

 若干くぐもった声になっているが、カンナはしっかりと聞き取れた。

「皆さんへのお土産を探しに。……買える時に買っておかないといけませんから。明日からまた動き回るし、また何か起こるでしょうしね」

「まあ、確かにな」

「というかアレン、貴方動いて平気なの?」

「大丈夫です。そんな柔な体ではないので」

「いや、普通に致命傷が幾つもあったような……?」

 アレンの動きは淀みなく、怪我してるようには全く見えない。この人本当に人間なのだろうか?

 まあ頑丈なことはいいことだ、と二人は自分に言い聞かせる。

 ガッシャンガッシャンという音を聞きながら三人は歩き回る。

「温泉卵、温泉饅頭……似たような物ばかりね」

「定番のお土産、ということでしょう」

「何かこう、普通じゃないお土産はないのかしら……?」

「サクラ、それ意外すぎるの買って失敗するやつ」

 まあ定番の物を買っておいて損はないだろう。という理屈でカンナは饅頭やら卵やらを買い込む。

 アレンが荷物を持とうとしたが、それよりカンナは魔法の詠唱を始める。

瞬間転移ムーブ

 シュッ! という音と共にお土産が消える。

 カンナが唱えたのは転移魔法の一種だ。大きさに制限がつくが、代わりに呪文が短く、魔力が少なくても使える魔法だった。

 それを見ていた土産屋の店員がギョッとした目でカンナを見ている。

 そんなカンナは見られるのが嫌らしく、そそくさと土産屋から離れていく。

 ほう、とアレンが関心したような声を漏らす。

「凄いな。転移魔法まで覚えているとは」

「……私は一年かけて使えるようになったのにね」

「サクラの教え方が上手だからよ」

 あははと笑いながら謙遜するカンナ。

 ……因みに、カンナの習得時間に霞んで見えがちだが、転移魔法なんて普通魔法使いが一生をかけて覚える魔法だったりする。こいつらが異常なだけで。

 サクラは多少むくれながら辺りをキョロキョロと見回している。普通じゃないお土産をまだ探しているようだ。

「……あれ?」

「どうしました?」

 サクラの視線の先をアレンとカンナは追うが、そこには土産屋どころか壁しかない。

 サクラには他の人には見えていない何かが見えてるのか、壁に向けて手を伸ばす。

「……貴女、誰?」


 サクラがそう聞いた、その瞬間。

 バキバキバキバキベキベキベキべキッ!! と、空間に亀裂が走った。


「姫!」

 アレンの反応は早かった。サクラを手元に引き寄せ、腰に下げてあった剣を手に取る。

 そうこうしている時も亀裂はどんどん広がっていく。周りの一般人たちも異常に気づき、一斉に逃げ出していく。

「これは!?」

「空間魔法です! と、とりあえず塞いでみます!」

 カンナが慌てて詠唱に入ろうとするが、それをサクラが止める。

「待ってカンナ! これ、空間魔法じゃなくて幻惑魔法!」

「へ!?」

 サクラに言われてカンナは注意深く亀裂を見るが、どう見ても空間に亀裂が走ってるだけにしか見えない。幻惑なんて一切感じなかった。

 そうこうしているうちに、亀裂がどんどん広がっていき、ブワッ!! と亀裂の向こう側から大量の魔力が漏れ出す。

 その魔力の持ち主を、三人は知っていた。

「こいつ、確かヴァージリアとか名乗った魔人の――!?」

 魔力の奔流を受け止めながらアレンはサクラにどうすればいいかを聞こうとした。

 だがそれよりも早く、亀裂の向こう側にある魔力が一点に収束していく。空間を打ち抜こうとしているのだ。

「結界を張って! 早く!!」

「間に合わな――っ!!」

「くそ!!」

 サクラがギリギリの所で魔力を受け止める結界を張り、アレンが二人を護るために前へと出た、その直後。


 ズォッ!! と。

 漏れ出ていた魔力がちっぽけに思えるほどの魔力が、亀裂から噴き出した。


 ヴァージリアではない。圧倒的魔力を持つ第三者が亀裂の向こう側にいるのを、三人は感じ取った。

 声が聞こえてくる。女性の声だ。

『はいはいごめんなさいねーちょっとどいてちょうだいねー。ん? 誰って言われても、名乗る程の者ではないし……というか貴方は正直どうでもいいし。ごめんなさいね。私は可愛い子が好きであって、美人が好きってわけじゃないのよ。というわけで、飛んでけー』

 亀裂の向こうで轟音が鳴り響く。それと同時に、ヴァージリアの魔力が消え去った。

 カンナたちがわけがわからず立ち尽くしていると、亀裂がドンドン消えていく。

『はいはい直しましょうねー。しかしあの魔人凄いことしてるわね。生命あるものを騙すのではなく、世界そのものを騙すなんて。私でもできるかどうか……ん? この気配は……可愛い子!!』

 何故だかわからないが、三人は猛烈に嫌な予感を感じ取った。

 そして、その予感は正しかった。

『ほいっと』

 気楽な声と共に、あっさりと空間に穴が空く。現れたのは、黒髪の綺麗な容姿をした女性。

 ……綺麗なのだが。何故か素直に綺麗という感想が出てこない。別に女性がおかしな言動をしたわけでも、妙な格好をしてるわけでもないのにだ。

 その女性がカンナとサクラを見た、次の瞬間。

 ボゴォ!! と莫大な魔力が女性を中心に渦巻く。

「っ!?」

 アレンは思わず目を瞑ってしまい、……そして直後に後悔することになる。

 サクラとカンナが、女性と共に消え去っていたからだ。

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