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語られない伝説・No.12

 次に行く国の名前は、ドラブラエとかいうらしい。

 この国は竜騎士がいることで有名だ。そこそこ大きい国を、たった三十人の竜騎士たちで護っていることもかなり有名だ。

 たった一人でも小国と渡り合えるとか、国の人たちの階級は完全実力主義だとか、他の国にはない特徴を多数持っている。

 因みにここの国の王は、自分たちが一番戦力を持ってるからという理由で王位継承権を唱えている。配下の竜騎士たちもそれに賛同しているため、戦闘はまず避けられない。

 そのため、しっかりと準備を整えていかなければ、流石のジャックも危ないのだ(あくまで殺さないことを気にして戦えばの話だが)。

 ……整えないといけないのだが、

「……なぁラーシャ」

「貴方が私の名前を呼ぶなんて珍しい。どうしたの?」

「俺さ、今何やってるよ……」

「? 何って……」

 ラーシャは傍らに立つジャックに視線を向ける。

 服装はいつも着ている防刃服ではなく、ちょっと身分の高い人が身につけるようなお値段高めの黒い服。腰に剣は下げてなく、赤い髪はサラサラとしている。

 その手には黒色のファイルが一つあり、大量の紙が挟まれている。

 ふむ、と普段と変わりない服装のラーシャは、ジャックを見ながら言う。

「お姫様のお仕事の手伝い、じゃなかったかしら?」

「だよなぁ俺ほんと何やってんだ!?」

 うばぁぁ!! と叫ぶジャックに、一般市民の方々が奇異な視線を向ける。が、すぐに興味をなくしたように歩き出す。仕事でストレスが溜まってる人にでも見えたのだろう。

 ラーシャは頭に手を当てながら記憶を掘り起こす。

「えーと、確か書類だけではわからないことがあるから、ジャックに見てきてほしいっていうナスタのお願いを貴方が聞き入れたんじゃなかったかしら?」

「傭兵の仕事じゃねぇよ! 違うだろ! 傭兵ってさ、戦場で戦ったり汚いことする仕事じゃなかったっけ!? なんで俺は政治家の秘書みたいなことやってんだ!?」

「秘書ってこんな仕事してるかしら?」

「知らねえよ! 俺は秘書じゃねえんだよ! 俺は傭兵なんだよ、戦場で馬鹿みたいを剣を振るう奴なんだよ! なんでこんな服着て色んな奴の話聞いて意見まとめてとかしなきゃいけねえんだよもおおおおおおおおおおおおおおおおう!!」

 猛牛みたいな叫び声を上げながらジャックはその場に座り込んでしまう。ラーシャはそんなジャックが視界に入ってないかのように振る舞う。

「えーと、次はプルルク村での被害状況の確認ね。なんでも盗賊の被害が酷いらしいけど、情報があやふやすぎて対応に困ってるらしいわ」

「お前はお前でなんで仕事してんだ!?」

「あら、魔女ってこういう雑務大好きなのよ? 全部魔法で片付けようとするくらいには」

「……それ、雑務面倒臭がってないか?」

 うだうだと言いながらもジャックは仕事をこなしていく。ラーシャの冷やかしに心を折られかけるが、ギリギリの所でジャックは踏ん張るし、ラーシャはギリギリの所まで叩き折る。

 そんなことを二三時間ほどやっていると、突然ラーシャがこんなことを聞いてくる。

「ジャック、なんでこの仕事を引き受けたの?」

「好きで引き受けてねえよ半強制だったろうが仕事疲れでぐったりして断ったら泣くぞ的なこと言われて断れねえよ!!」

「いや、そっちじゃなくて。なんで候補者だけを殺す、なんて面倒な仕事を引き受けたのかっていうことよ」

「ん? なんだそんなことか」

 ジャックはポケットから蝶のペンダントを取り出す。どうやら常に持ち歩いているらしい。

「これだよこれこれ。このペンダントがあるからだよ」

「……それって、王族の証じゃなかったかしら? なんで貴方が……」

「先代国王に貰った。いやー、これ単体でも馬鹿みたいな額で売れるけど、これに使われてる鉱石自体がかなり希少な物らしいから、溶かして鉄の塊にしても遊んで暮らせる金が手に入るぞ」

「……うん、うん。まあ、お金は確かに入るわね、うん」

 ラーシャは彼女にしては珍しく、何かを迷うように目をキョロキョロと動かし、

「…………ジャック、貴方が知らないことを教えてあげるわ」

「知らないこと?」

 ラーシャはペンダントを指差し、明後日の方向を見ながらボソボソと聞き取りづらい声で喋る。

「そのペンダントを王族から直接手渡されることはね、そのまま王位が継承されることを意味するのよ」

「は?」

「言い方を変えましょうか? そのペンダントを持ってる奴が、王様なのよ」

「……………………………………………………………………………………マジで?」

「マジで」

 信じられないと言いたげなジャックの顔を、ジッとラーシャは見つめる。

 自分の言ってることに偽りはないと、ジャックに伝えるように。

「貴方は知らないでしょうけど、王位継承権を主張している奴らもだいたいそのペンダントが原因なのよ。先代国王が死んだ後、彼らは間者を用いてペンダントを回収しようとした。けれどもそこにペンダントはない」

 そこで一息つき、少しして間を空けてからラーシャは続ける。

「そして各々の国はこう思った。『どこかの国がペンダントを奪った』とね。後の展開はもうお察しよ。各々の国は『他の国がペンダントが所持している』と思い込んでいて、それを抑えるためにわざと継承権をでっち上げているのよ。何処かの国がペンダントを持っていることをある確認したら総攻撃を仕掛ける手筈を整えながら、ね」

「……なぁ、ちょっと一ついいか?」

「何かしら?」

「今現在、ペンダントを持ってそうな確率が高い奴と思われてる奴ってさ……」

「そりゃもちろんナスタおひ――」

 ラーシャが全てを言い終える、一瞬前だった。


 轟ッ!! と、爆炎が空から降り注ぎ、ラーシャへと直撃した。


「っ!?」

 ジャックの声は爆音によってかき消されてしまう。間近で爆風を受けたジャックは宙を舞う。

「っそが!」

 ジャックは空中でクルクルと回転し、民家の屋根へと着地する。

 腰に手を当てるが、剣がないことを思い出し悪態をつく。

「何だってんだクソッタレ……」

 ジャックは空を見上げながらそう呟く。


「なんだって竜騎士が二十人近くも来てんだクソッタレが!!」


 ジャックの叫び声を打ち消すように、竜が雄叫びをあげた。

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