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語られない伝説・No.11

「ごめんなさいね。取り乱したわ」

 降りてきたラーシャはまずそう言った。

 ……取り乱したとかそういうレベルではなかったのだが、面倒なのでジャックは触れない。

 ナスタが余計なこと言いそうだったので口を塞ぎながらジャックは問う。

「で、お前はどこまで協力してくれるんだ?」

「むーむー!」

「そんな深入りはしないわ。まあよくいるお助けキャラのようなものだと思ってちょうだい」

「お前のようなお助けキャラがいてたまるか」

「むー……ぐ」

「そうかしら? 『もうあいつ一人でいいんじゃないか?』っていうキャラはよく物語に出てると思うのだけど」

「そんなにいねえよ。……まあ協力してくれるのは有難い限りだ。具体的にはどんなことをしてくれんだ?」

「……ぅ、……」

「道案内とか道具の売り買いとか、他の国の情報とか辺りね」

「そんだけ? 移動手段とかくれよ、エアボートとかいう空飛ぶ機械みたいな」

「…………」

「何言ってんのよ。そもそもこれは貴方たちの戦い。部外者が手を貸しすぎると問題なのよ。……あと、そろそろその子が死にそうなんだけど」

「おっと」

 ラーシャに言われて気づいたジャックがナスタから手を離す。どうも口を塞ぐのと一緒に鼻も塞いでいたようだ。

 新鮮な空気を肺に取り込む姫様を見ながらジャックは問う。

「問題って何がだ?」

「莫大な力を持って候補者を叩き潰すことがよ。それでは他の候補者と変わりなく、結局民によるクーデターが起きてしまう。だからこちらはひたすら正しく、ひたすら綺麗でいなくちゃ」

 そんなラーシャの言葉に、ジャックが苦い顔をする。

「……もしかしてお前はアレか? か弱き姫が頑張って良き女王になる話でも作りたいのか? それを支える剣士の名前も載せて」

「そこで騎士と言わない辺り貴方らしいわね。まあそんな感じの美談を作り上げたいのは確かよ。汚い国取り合戦よりは綺麗な方がいいでしょ?」

「ふざけんな馬鹿! 嫌だぞ俺はこんなのに付き従うなんて! この件が終わったらさっさと別の国になんだからな俺は!」

 ナスタ、こんなのと言われて目が潤んでいるが、ジャックは気づかないしラーシャは一々ジャックに教えたりしない。

 ラーシャはジャックの顔を見ながらこう告げる。

「無理ね」

「断言された!? その自信はなんなんだ一体!」

「貴方の悪い所よ。そうやってギャーギャー騒ぐくせに、一度関わった人に何かあったらすぐに関わりにいくんだもの」

「関わりにいったこと一度たりともねーよ! 全部巻き込まれて仕方なくやってんだろうが!?」

「その割には積極的なのだもの」

 ラーシャはそろそろ剣を抜きそうなジャックから視線を外し、ナスタに視線を向ける。

 今後彼女の周りで起きることを想像しながら、魔女ラーシャ傭兵ジャックに問う。

「そんなにも正当な理由が欲しいの?」

 魔女の問いに、傭兵は首を傾げる。

「……正当な理由? 何をするのにだよ?」

 本気でわからないらしいジャックを見て、ラーシャは溜め息を吐く。

「やっぱり、ジャックはジャックね」

「なあ、もしかして俺馬鹿にされてる?」

「馬鹿にしてはいないわ。呆れてるだけよ」

「そうか。俺はお前の変態性にいつも呆れてるよ」

 ジャックの言葉を聞かず、ラーシャは空を見上げる。ジャックも釣られて空を見上げ、ナスタは二人が空を見上げているのを見て不思議に思いながら空を見上げる。。

「ねえジャック」

「なんだ?」

「欲求不満を感じたことはない?」

「ぶごっ!?」

 ラーシャの言葉を聞いたナスタは、年頃の少女らしいことを想像してしまったらしく顔を赤くして奇妙な声を出す。

「…………」

 ジャックはもう慣れっこなのか動揺しない。速やかに抜刀し、ラーシャへと剣を振るおうとする。

 だがその前に、ラーシャが片手でそれを制す。魔法でも何でもないただの動作だったのだが、ジャックの動きが止める。

「真面目な話よ」

 ラーシャがそう言うと、ジャックは剣から手を放し、再び空を見上げる。

「……現状に不満を持ったことはない。欲求不満なんか感じたこともない」

「本当に? 自分の全力を弾き出したいとか、そういった物は本当にないの?」

「ない。……てか、俺もお前も、全力出したら被害がとんでもないことになるだろうが。出したくても出せねえだろ」

「……そう」

 ラーシャはそう呟き、ジャックとナスタへと視線を向ける。

「だったらそれでもいいわ。どうせ時間はたっぷりあるのだし」

「なんだその意味深な発言は」

「よろしくね、ナスタ、そしてジャック」

 そう言い、彼女は笑う。彼女の笑顔を見ながら、傭兵と姫は思う。

 とても穏やかな笑顔に猛烈な違和感を持ってしまった俺(私)はおかしいのか、と。

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