村に空いた大穴
ひとまず帰るという方針には全員賛成した。カンナもサクラも魔力はスッカラカンだし、アレンは生きてる方が不思議なレベルの傷を負っている。
ジンたちが旅館に戻って傷の手当てをしていると、ドタドタと一人の兵士が入ってきた。城を案内してくれた兵士だ。
「し、失礼します! ジャック殿はいらっしゃりますか!?」
何やら急ぎの用みたいなので、部屋を変えてジンと数名で改めて話を聞くことに。
「それで、どうかしたのですか?」
「きょ、今日の昼頃、村が突然消えました!」
「……ああ、はい、そのことは把握しています」
「既に知っていらしたのですか!? 流石です!」
知ってるも何もその場でドンパチしてたけどな、というラルクの声は兵士に届かない。
「それでですね、村のあった場所にポッカリと空いたあの穴について何か教えてもらえないかと……」
「穴? あー、そういえば魔人が派手に空けてたっけ?」
「ま、魔人!? 魔人があの大穴を空けたんですか!?」
「……ん? 大穴?」
何か、妙な感じがした。
村の穴は確かに大きかったが、大穴と呼ぶには少々小さい気がした。
「……あの、一応地図で確認してもらっていいですか?」
ジンが机の上に地図を広げながらそんなことを言う。
「へ? 場所、ですか?」
「はい」
「ええと、……ここですね」
そう言って兵士が指差した場所は、
「……違う」
「え?」
「ここじゃない。私たちが戦った場所は、ここじゃない……」
しばらく地図を眺めていたジンは、突然兵士の腕を掴み取る。
「すみません、貴方も付いてきてください」
「へ? え? は? あの、自分はまだ職務中で―――」
兵士が何か言っていたが、ジンは全く聞いていない。そのまま兵士と一緒に部屋から出て行ってしまった。
部屋にいるラルクたちは兵士が指差した場所を確認してみるが、別に特別なことなんてない普通の村のようだった。
「ジンさんはなんであんな焦ってたんだ?」
「え? あれって焦ってるんですか? 別に普通に見えたんですけど」
カンナは走り去ったジンの顔を思い出すが、その顔に焦りはないように見えた。
のだが、ラルクたちはいやいやと手を振りながらカンナの言葉を否定する。
「急ぐようなことじゃないなら、ジンさんは笑ってるはずなんだよ。笑ってないってことは、笑う余裕がないくらい焦ってるってことだ」
「……よく分かりますね」
「そりゃあ、俺らは二十年くらいジンさんの顔を見続けてるからな。嫌でも分かるよ」
ガッハッハとラルクたちは笑う。笑いながらふと思い出したように聞いてくる。
「そういやカンナちゃん、魔人に何を言ったんだ?」
「え?」
「カンナちゃんが魔人に何か言ったら、魔人がどっかに逃げたじゃん。何を言ったんだろうって気になってたんだよ」
「えと、ジャックが来てるぞー的なことを言っただけなんですけど……」
「……それだけ?」
「はい、そうですけど……。あの、私もサクラの方に行ってきていいですか? アレンさんも心配ですし」
「いいよいいよ、行ってらっしゃい」
カンナが丁寧に頭を下げた後に部屋を出て行く。気配が遠ざかったのを確認した彼らは、笑みを崩さない。
「……さって、どうするてめえら?」
「魔法を使うのは駄目だね。カンナや姫さんならすぐに気づける」
「かといって単純に気配を隠すだけだと騎士様に気づかれるか。何気に隙のない布陣だな」
「……今は様子を見るしかない、か」
そう言いながらラルクは懐から紙を取り出す。赤青黄緑と計四枚あった紙を配り、ラルクはパンパンと手を叩く。
「んじゃまあ、安全重視でいこうか」
「下手に攻めると、こっちがやられかねないからねぇ」
「ジンさんにも後で言っとかないとな」
そう言いながら、彼らは部屋から出て行く。
無人となったはずの部屋で、声が響く。
「……さてさて、こっちもあっちも順調っと」
クスクスと、小さな男の子が笑う声が部屋に響いた。
「頑張れ」
その一言を境に、部屋に静寂が訪れた。




