捜索依頼
「カンナさん、あまり揉め事に突っ込まないでください。近くの衛兵を呼ぶなりなんなり他に手はあったでしょうに」
「すいません」
さっきいた路地裏とはだいぶ離れた所に二人はいた。厄介事は嫌なので男達を置いて逃げてきたのだ。
「私たちが貴女に魔法を教えたのは基本的には作業のためであり自衛ではないんですよ? 貴女の才能は確かに凄いですが一人では限界というものが……」
「ジンさんそのくらいにしといてやりな」
説教をしようとしたジンの背中きら声がかかる。
ジンが振り向くとそこには仮面の男がいた。服装はジンが着ている服と同じだ。
「おや、もう終わりましたか?」
「もちろん! 完売だよ完売」
仮面のせいで表情はわからないが、雰囲気で笑っているのだとわかった。
「それよりちょいと面倒な事になってるんだ。すまんがジンさん広場に行ってきてもらえないか」
「面倒、とは?」
「なんでも国からお話があるんだとさ。俺たちだけじゃなくて商人や旅人全員にだ」
「……わかりました。ではカンナさんをお願いします」
仮面の男に軽く会釈し、ジンは広場へと歩き出す。
向かう途中には自分と同じように広場へと向かう人が見られた。
広場にはそれなりの人数がいた。皆呼ばれた理由なんかを知らないようだ。
「ん? あれは……」
そんな人混みの隙間を縫い進む鎧の騎士がいた。
全身を銀色の鎧で包んだ強面の男は集まった人々を睨みつけるように見ている。
そんな騎士と目が合ってしまったジンはにこやかに笑い会釈する。
騎士はジンを睨みつけながら広場の中心に立つ。
そこで周りの人々が騒ぎ出す。
「おいあれ、アレン将軍じゃねぇか」
「『第二の剣』だ」
「なんだってこんなところに……」
ざわざわと騒ぎ出す人々の前で、騎士は剣を引き抜き、床に勢い良く突き刺す。
静かになった広場で騎士は全員に聞こえるくらいの声を出す。
「この国に暗殺者が入り込んだとの情報が入った! 狙いはサクラ姫!」
静かだった人々が騒ぎ始める。
そんな騒ぎ声に負けないくらい大きな声で騎士は告げる。
「暗殺者を逃がさぬためにも姫を殺させぬためにも! 諸君らを国の外に出すことはできない! 問題解決まで国に滞在してもらう!」
より一層騒がしくなっていく。その声のほとんどは非難の声だ。
「なお、怪しき者は全て拘束させてもらう!」
音が消えた。皆まるで石にでもなったかのように止まっている。
そんな中、一人だけ歩いている人物がいた。
さっきまでの活気は嘘のように静かな道をジンは歩いていた。
聞こえてくる音は足音だけで、他には何も聞こえてこない。
ジンが足を止めると、音は完全に消え去った。
「疑わしきは罰する、と言うことですか?」
ジンが呟く。
すると突然、誰もいなかった道に騎士が現れた。
数は三人。その一人には先ほどの騎士もいる。
その騎士が喋る。
「事態が事態だ。殺さないだけマシと思ってもらうしかあるまい」
「殺してしまうと暗殺者が消える手段を増やしてしまうからでしょう? 情ではなく」
「ふん。……お前らは引き続き警戒に当たれ」
言い終えた時には既に他の騎士は消えていた。
ジンは笑顔で騎士に言う。
「さっきのは直属の部下ですか? 『第二の英雄』」
ジンの言葉で、騎士は苦々しい顔になる。
「頼むからそれはやめてくれ。俺はあの英雄にはまだまだ程遠い」
「それで、何の用ですかアレン?」
「……はぁ、まぁいいや」
騎士、アレンは何か諦めたような顔をする。
「暗殺者が来てるというのはさっき聞いたよな?」
「はい。何かを隠すためだとはわかってますが」
「……実は、だな。暗殺者が来てるのも本当なんだが、もっと大変な事があってだな」
「暗殺者より大変、ですか?」
ジンは驚いていた。姫が殺される事よりも大事な事があるとは思えないからだ。
「……なんていうか、その、姫が、だな。……逃げ出したんだ」
「……元気が良いですねサクラ姫は」
なんかもう、笑うしかなかった。アレンもジンもハハハと乾いた笑い声を出す。
「それですまないんだが、お前も姫を見かけたら城に連れて来てくれないか? 縛ってくれて構わないから」
「ま、まぁ構いませんが、なんで私に?」
「我々だと顔が知られてるからな。姫の顔は分かるよな?」
「はい。綺麗な黒髪の子ですよね?」
「そうだ。頼んだぞ」
そう言うとアレンは空気に溶けるように消えた。
「……しかし、こんな広い街で会えるとは思えませんですがね」