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語られない伝説・No.9

 二時間が、経過した。

「いいわ! 本当にいいわあなたああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 女性がとんでもない奇声を上げながら魔法を行使する。ヒュンッ、ヒュンッと風を切る音が何度もする。

 ……この女性、詠唱なしで魔法を行使するしナスタの服と持ってきた服を魔法で取り替えるというとんでもないことをやっているのだが、何だか変態性のおかげで全部台無しになってしまっている。

「……もう勘弁してください」

 因みに、今のナスタが着ているのは白いドレスだ。途中までヒラヒラの付いた服とか革ベルトのみで構成されたような服とか侍女が着ている服に似ているけど決定的に何か違う服とか着せられていたのだが、最後にやってきたのが王族のドレスだった。

 というか、ナスタが城に置いてきたはずのドレスだ。どうも盗み取ったらしい。

 女性はというと「いいわ! 貴女ドレスいいわね!」とか言ってる。普段着ているのだからそりゃそうだろうというジャックのツッコミは女性に届いていない。

(……というか、私何しにここに来たんでしたっけ?)

 目的を見失いかけているナスタに、女性は更に追い討ちをかけてくる。

 ヒュンッと、新たな服が現れる。今度はなんだろうともう諦めきっているナスタが思っていると、

「ぶぼっ!?」

 なんか、ジャックが驚いている。いったい何が来たんだと顔を上げてみる。


 そこには、雪のように真っ白なパンツとブラジャーが浮いていた。


「ぶぼっ!?」

 ジャックと全く同じ反応をナスタはしてしまう。いや、目の前にパンツとブラジャーが浮いていたら誰でもこうなるかもしれないが。

 そして、今までの流れからして、これをナスタが着用することになる。

 女性はなんか更にテンションが上がった状態で叫ぶ。

「さあ、いくわよおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

「待ってください! ちょっと待ってください!!」

 鬼気迫るナスタの叫びに何かしら感じ取ったらしく、女性の動きがピタリと止まる(顔は不満そうだが)

 だが、そんなことはどうだっていい。今は何よりも確認しなくてはいけないことがある。

「ちょ、ちょっと待ってください。その、それをどうするつもりですか?」

「へ? そりゃあもちろん、貴女に着せるんだけど……」

「ちゃ、ちゃんと着た状態ですよね!? まさか着用している衣服がそれだけとかいう状態にはなりませんよね!?」

「? シャツとか着せるのも悪くないけど、普通に見た方が可愛いからこれだけよ?」

 これだけ。つまり、パンツとブラジャーだけ着せて後はノーガード。

 やばい、と今更ながらナスタの頭の中で警報がガンガン鳴る。こんな街中で下着姿とか、王族以前に人として色々アウトだ。

「……、」

 ジャックは頼りにならない。顔に手を当てて「ついにそこまで逝っちゃったか……」とか呟いている。とてもじゃないが女性を止められそうにない。

 そんな二人の見て、女性はぷぷーと息を吹き出して笑う。

「これ別に下着じゃないわよ」

「「へ?」」

「何言ってるのよ二人とも。こんな場所でいきなり下着姿にさせるわけないじゃない」

「……正直、お前ならやりかねんと思ってる」

「流石にそれは後で個室でやるわよ」

 まだあるの!? とビクビクと震えながらナスタは下着に似た何かを指差す。

「それで、これは結局……」

「水着よみ・ず・ぎ。海水浴なんかする時にこれを着て泳ぐのよ」

「……なるほど」

 ナスタは水着を見ながら思う。下着姿ではなく、水着姿なら多分大丈夫だろう。

「って、露出自体は全く変わらないじゃないですか!」

「大丈夫大丈夫! パンツじゃないから! パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」

「恥ずかしくないわけないじゃないですか! せめてもっと露出を抑えてください!」

「えーと、じゃあ鎧! これは巷で話題になってるビキニアーマと言ってね!」

「変わってないですよ!!」

 ギャーギャー騒ぎながらも女性は空間転移でナスタのドレスを剥ぎ取ろうとし、ナスタはピョンピョン飛び回って避けている。空間転移は座標指定なので少し移動するだけで避けれてしまうのだ。

 全力で逃げるナスタに、ジャックが声をかける。

「おーいナスタ」

「なんですかジャックさん! 今は忙しいんですけど!?」

「じゃあ手短に済ますわ。パンツ見えてるぞ」

「え、え!?」

 顔を真っ赤にしたナスタがスカートを両手で抑えた瞬間、女性の目が禍々しく光る。

「とったらああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「取るな変態」

 ゴンッ! と鈍い音した。

 ジャックが置いてあった鉄棒で女性を叩いた音だった。

 女性は地面に向かって倒れていき、頭が地面に当たる直前で停止。重力を軽く無視して女性は文句を言う。

「何するのよ」

「……頭から血がダバダバ流れてるのになんでお前は平気なんだ?」

「天才だから」

「理由になってねえよ」

 再度鈍い音が響き渡り、今度こそ女性が地面へと倒れる。誰がどう見ても殺人現場なのだが、倒れている女性はニコニコと笑っている。

「まあいいわ、水着はまた次の機会にしましょう」

「……あ、あの、その人大丈夫なんですか?」

「頭の傷は大丈夫だけど、頭の中は終わってるから全力で警戒しとけよ。こいつは女だけど、そこらの変態オヤジより危険だから」

「ああん、酷い」

 血まみれの女性はゆっくりと起き上がる。何故か服に血が付いてないが、些細なことだろう。

「そういえばまだ自己紹介してなかったわね。私はラーシャ・プリムレルよ、よろしくね」

「ここで自己紹介!?」

「テンション上がってたから、仕方ないわね」

 ラーシャのそんな台詞に、ジャックは溜め息を吐く。

 そんなジャックの肩をちょんちょんとナスタはつつく。

「ん?」

「……見たんですよね」

「は?」

 ジャックが振り返ると、赤い顔のナスタが。何故かスカートを両手で抑えたままだ。

「パンツ見えてるぞって言ったってことは、見たんですよね私のパンツ」

「…………あー……すまん」

 スッと、ラーシャが鉄棒をナスタに渡す。ナスタは鉄棒を受け取り、振り上げる。

「いやいやまてまて、これは俺のせいじゃないだろ? お前がピョンピョン飛び跳ねてたのがいけないんだし飛び跳ねる原因作ったのはそいつだしだから俺は悪くないから悪くないから呪文唱えて身体強化しないでくださいお願します!!」

腕力強化アームド

 ズオッ!! と空間さえ砕きそうな威力の鉄棒が、ジャックの頭部へ振り下ろされた。

 血だまりがもう一つ出来上がったのは、言うまでもないだろう。

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