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魔の者

「はぁ……はぁ……っ!」

 サクラが魔法を放つと同時に、カンナの魔力の殆どを持ってかれることになった。カンナは荒々しく息を吐きながら顔を上げる。

 サクラの放った雷閃槍の威力は、凄まじいの一言だった。

 同時に何らかの結界を張っているからか、範囲そのものは狭い。だが、雷閃槍が落ちた場所には底の見えない深い穴が空いている。

 もちろん、そこには誰もいない。誰かがいた形跡さえ、全て消えている。

「……アレン」

 騎士がいた形跡も、同様だった。

「……何が大丈夫よ」

 サクラの声のみが、辺りに響き渡る。

 カンナが声をかけるべきか迷っていた、その時だった。

「……おーい、あんたら勝手に騎士様を殺してやんなよ」

 声が聞こえてきた。ヴォルフでも、アレンでもない、野太い声が。

 振り返れば、最初の一撃で何処かに消えてしまっていたジンの仲間たちが。その側には、ぐったりとしたアレンの姿も。

「アレン!?」

 サクラがアレンの元へ走り、入れ替わるように顔に傷がある男がやってくる。

「ラルクさん、いったい何があったんですか?」

「えーと、俺ら全員だいぶ遠くに吹き飛ばされてな。なんか遠くからまだ魔人がいる感じはしたし、急いで戻ってきたらなんか騎士様ごと撃ち抜くみたいな話になってたから、撃つ直前に転移魔法を使ってこっちで回収しといたんだ。……回収って言いかたすると物みたいだな」

 わははとラルクは笑いながらアレンの方を見る。見た限りでは、ただ気絶してるだけのようだった。

「っかし、随分な威力だな。こんなもんジンさんでも耐えられるかどうかわかんねえぞ? ……いや、これ耐えれらた正真正銘人間やめてるけどな」

「…………」

「あーあ、村が一つ消えちまったなー。住人は魔獣の被害があるから全員避難してたから誰かが死んだりはしてないと思うが……」

「ラルクさん」

「んあ?」

「なんか、違和感感じません?」

「違和感、って何にだ?」

 カンナは辺りをキョロキョロと見ながら続ける。

「よくはわからないです。だけど、何か見落としてるような、そんな気がするんです」

「……んー?」

 ラルクも辺りを見回すが、妙な物なんかは特にない。辺りには村の残骸があるくらいだ。

「気のせいじゃないか? 俺は特に何も感じないが」

「そうですかね……?」

「そうだよ。とりあえず今日は戻ろう。騎士様を休めさせなちゃいけないしな」

「……そうですね」

 納得はできなかったが、この件は保留にすることにしたカンナはラルクと共にサクラたちの元へ行く。

 ……ここで、彼らは二つほど間違えていた。

 一つは、意識を周りに向けなかったこと。魔人を倒したことで、皆気が緩んでいたのだ。

 そして二つめ。これが一番重要なことだが、


 魔人をあの程度で殺せたと思い込んでしまったことだ。


 轟ッ!! と、雷閃槍の空けた穴から莫大な魔力が溢れ出した。

「っ!?」

 ビキビキベキバキ! と地面に亀裂が走り、穴を起点にして地面が崩れていく。亀裂は広がり、カンナたちのいる場所にも届いた。

「全員走れ!」

「誰かそこの鉄野郎運べ!」

 慌ててカンナたちが逃げ出すと同時に、太陽か何かと勘違いしそうなほどの光が辺りを満たす。

「ぬおっ!?」

「とにかく走れ!」

「くそ! 眩しすぎて何にも見えん!」

 魔力が溢れ出してからきっかり三十秒後、光が突然消え去り、穴から人影が飛び出した。

 人影はカンナたちの目の前に降り立つ。自然とカンナたちの動きは止まる。

「……なかなか効いたぞ」

 人影、魔人ヴォルフは、剣を構えながらそう言った。

 流石に無傷とはいかなかったようだが、それでも致命傷になったようには見えない。

 サクラが動揺を隠せずに呟く。

「……あれでも倒せないなんて」

「だから効いたと言っただろう? 人間も侮れないな。まさかここまで強大な魔力を持つ者がいるとは」

 さて、と呟きながらヴォルフは剣を彼女に向ける。

「その結界を解き、全力でかかってこい。……金髪」

「「「……金髪?」」」

 全員の視線が彼女へと向く。金髪など、ここには一人しかいない。

「…………」

 彼女は、カンナは向けられた剣に一切の反応を示さなかった。ヴォルフも、周りの皆も見ていなかった。

 その目は向こう側、ヴォルフの後ろに向けられていた。

「……、」

 何かを呟いた。その言葉サクラたちは聞き取れなかったが、魔人は聞こえたらしい。

「……なるほど」

 ヴォルフは一歩後ろに退き、剣を鞘に収める。それと同時に彼の魔力が右手に集まっていき、地面に勢いよく右手を叩きつける。

 右手を中心に穴が空き、ヴォルフは穴に飛び込んでいく。

 それとほぼ同時に、バゴンッ!! とヴォルフのいた場所にジンが降り立った。

「くそ!」

 ジンが悪態をついたのを聞いて、ヴォルフは笑い、そのまま穴は閉じて消える。

 ジンは何かブツブツと唱えながら穴があった場所に向けて剣を突き刺す。

「…………駄目、か」

 ジンは溜め息を吐きながら剣を引っこ抜き鞘に収める。

「皆さん、大丈夫でしたか?」

「ジンさん、なんでここに?」

「魔人並の魔力を感じ取ったので来てみたんですが……まさか本当に魔人がいるとは思いませんでしたよ」

「……ジンさん、あんたがいる場所ってかなり離れてたはずなんだが、一分もかけずに来れるのかよ」

「? ここまでくるのに五分は経ったと思ってたんですが……」

「は?」

 ジンたちが頭に疑問符をを浮かべていると、横合いから声をかける男が一人。

「……ジン、俺への心配はないのか?」

「あ、そういえば居ましたね、アレン」

「……酷い奴め」

 ふてくされたようなアレンの言葉に、彼らは笑った。

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