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貫くもの

 自分の身に何が起きたのか、一瞬よく分からなかった。

「……?」

 なぜ、自分は地面に倒れているのか。それすらも、カンナは思い出せなかった。

 倒れたまま辺りを見回す。辺りには、家の残骸が飛び散っていた。折れた木材がカンナの体に突き刺さらなかったのは幸運だったのだろう。

 とりあえず起き上がろうと思い、体に力を入れる。

 が、何故か体に力が入らない。痛みはないし、体に異常はなさそうなのに。

「カンナ!」

 声が聞こえてきた。サクラだ。足音はどんどんこちらに近づいてきている。

「大丈夫カンナ!?」

「…………」

 大丈夫、とカンナは言おうとした。だが、声が出ない。口がうまく動かなくなっている。

 そこでようやく、カンナは自分の状態が危険なことに気づく。痛みはないのではなく、感じ取れないだけだったのだ。

「おおおおおおおおおおおおおっ!!」

 遠くからアレンの雄叫びが聞こえてくる。起き上がって確認したいのだが、起き上がれない。

「カンナ、ちょっと我慢してて」

 サクラはそう言って呪文の詠唱を始める。カンナは呪文から回復魔法だと察する。

治療リキュア

 カンナの体を白い光が包み込む。

「―――っ!」

 そのすぐ後、カンナは全身のあちこちから痛みを感じ取れるようになった。よくはわからないが、骨は何本か折れているだろう。

 あまりの痛みに意識が飛びそうになる。涙がボロボロと流れる。

「頑張って! あと少しだから!」

 暫くして、ようやくカンナは痛みが遠のくのを感じた。回復魔法を使ってから一分そこらしか経ってないのだが、カンナには数十分もあったように思えた。

「もう大丈夫よカンナ」

 そう答えるサクラの顔に疲労はなかった。消耗の激しい回復魔法を使ってこれは流石と言うべきだろう。

 カンナは起き上がり、辺りを見渡す。

「……他の人は?」

「わからないわ。……少なくとも、近くにあの人たちの魔力はない」

「……、」

 嫌な考えが頭をよぎる。カンナは頭を振り、そんな考えを捨てる。

 彼らはそう簡単に死なない。自分に言い聞かせるように、カンナは思うことにする。

 ギィンッ! と金属がぶつかり合うことが二人の耳に飛んできた。

「アレン!」

 カンナが振り返ると、アレンが魔人ヴォルフと戦っていた。二人は高速で動き回り、その激突の衝撃で地面が削られていく。

 アレンが歯を食いしばり、全力で戦っているのに対し、ヴォルフは涼しい顔をしながらアレンの剣を弾いている。

 どちらが優勢かなんて、考えるまでもない。

「あのままじゃアレンさんが!」

 カンナは懐からジンに貰ったショートソードを取り出そうとする。が、何処かで落としたのかカンナの手元にはなかった。

「カンナ、手伝って」

「え?」

「あの魔人に私が知る限りの最高威力の魔法を使う。だけど私はまだ未熟だからその魔法を使いこなすことができないの。だからお願い、手伝って」

 カンナは少し考える。サクラを手伝うか、何処かにあるショートソードを壊してジンを呼ぶか。

 どちらの方が確実かなど、すぐにわかる。

「わかった。何をすればいいか教えて」

「……まず二人の魔力の質を同じにするわ。その後は私の呪文を復唱して」

 サクラがカンナの手を取る。その手を通じてカンナとサクラの魔力が繋がる。

 サクラは大きく息を吸い、呪文を唱え出す。

「―――。」

 それに輪唱するようにカンナも続ける。二人を中心に膨大な魔力が渦巻く。

「むっ」

 ヴォルフも気づいたらしく、アレンを置いて二人の元へ行こうとする。

「させるものか!!」

 その横っ腹をアレンは全力で蹴りつける。魔人はアレンに向き直る。そこには明らかな焦りがあった。

「ぬうあああああ!」

 ここにきて、アレンの攻撃に重みが増していく。ヴォルフの顔が苦々しくなる。

 ヴォルフは無理やり行くのをやめ、先にアレンを排除にしにかかろうとする。

「魔装、爆裂エルプ!」

 ヴォルフの叫びと共に振るわれた剣が赤く光る。アレンがそれを受け止めた瞬間、轟ッ!! と剣から爆炎が生じ、アレンを吹き飛ばす。

「追装、飛刃ラミナ!」

「ぐっ!」

 ヴォルフの剣の軌道にそって斬撃が飛び、アレンの剣にぶつかり爆炎が生じる。

「おおおおおあああああああああ!!」

 アレンは怯むどころか先ほどより速く強く剣を振るう。爆炎で体を焼かれようが一切止まる気配を見せない。

 そうこうしているうちに、魔法は完成した。だが、

「このままじゃあアレンも巻き込む。アレン、離れて!」

「駄目です! ここで俺が離れてしまえばこいつは即座に姫の元へ行きます! 俺ごとやってください!」

「そんなことしたらアレンが「死にません!」」

 サクラの言葉に重ねるように、アレンは叫ぶ。

「……俺が姫の魔法でやられるように見えますか? 俺は大丈夫です。それだけは確約できます。……さあ、早く!」

「―――っ!」

 迷ったのは、一瞬だった。サクラは手を空高く掲げ、力強く叫ぶ。

「―――雷閃槍ブリューナク!」

 空が青白い光を発した。光はそのまま大地へと落ち、ヴォルフに向かって落ちていく。

 ヴォルフは光を撃墜するべく、剣を構えようとするが、

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 そこに、アレンの剣が割り込んだ。雄叫びと共に振るわれた剣にヴォルフは思わず反応してしまう。

 その隙を突くように、光が、雷が落ちる。

 轟ッ!!!! と、雷鳴が鳴り響いた。

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