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語られない伝説・No.7

 その光は、城を包み込む障壁を必死に壊そうとする兵士達も見ることができた。

 新しい太陽が生まれたのかと錯覚する光と共に、城に張られた障壁が壊れた。

 バゴンッ!! と衝撃波が兵士達に叩き込まれ、殆どの兵士がひっくり返った。

 衝撃波から逃れられた僅かな兵士達は、城が崩れていく様を目撃していた。

 そして叫びながら落ちていく二つの人影を。

「―――!!」

 もはや声になってない叫び声を出しているのはナスタ。ジャックは顰めっ面になりながらもナスタを抱え込む。

 そのまま二人は湖へ落ちていき、ドボンッ! と派手に水飛沫を上げる。

 水の中でジタバタと暴れるナスタをジャックは無理やり押さえ込み、共に水面へと上がる。

「か、髪が! 見えない! ジャックさんちょっと見えない!」

「うるせえよほんと……」

 前髪がビッチャリと顔に張り付いて目が見えなくなっているナスタを抱えたままジャックは地面に登る。

「よっこいしょっと」

 ナスタを解放し、ジャックは仰向けに寝転がる。

 解放されたナスタは邪魔くさい前髪を纏めて頭の後ろに持っていく。ようやく周りを見えるようになった。

「……これからどうすればいいんですか? アルゴン・ドレットリートは助かってないでしょうし、国民の皆さんにどう説明すれば……ジャックさん?」

「……聞いてるよ。はっきりと罪人は死んだって言っとけ。多分ここの奴らは素直に従うはずだ」

「なんで分かるんですか?」

「……命令に従わない奴を痛めつけて捨てるように命令していた奴に、忠誠を誓う奴がいると思うか? 兵士は絶対お前の言うことを聞く。次期女王というのもあるが、何より統率者がいた方が都合がいいだろうしな」

「そ、そうですかね? ……ジャックさん!?」

「……なんだ? 兵士が槍でも持ってきたか?」

「違います! そうじゃなくて、せ、背中が……」

 何故か泣きそうになっているナスタをジャックは怪訝な顔で見ながら背中に手を当ててみる。

 生温かい液体がそこにはあった。手を顔の前に持ってきてみると、その手は血で汚れていた。

「……ああ、だからさっきから背中が痛かったのか。爆発のせい……か?」

「何呑気に言ってるんですか! 早く傷を治さないと!」

「そんなに慌てんなって。痛みをちゃんと感じ取れて、こうして普通に喋れてるんだから大した傷じゃなあだぁ!? 無理やり体を転がすなあだだだだ!!」

 痛みを訴えるジャックを完全に無視し、ナスタは傷口に向かって手をかざす。

「今直しますからちょっとジッとしててください!」

「お? お前回復魔法なんて使えたのか?」

 回復魔法は、他の魔法に比べて使いこなすのが難しい魔法だ。難しい上に、まず才能が必要だし、何よりかなりの魔力を消費するのだ。回復魔法が使えても魔力が少なくて大したことができない者は多い。

 だったら回復してもらおっかなーとリラックスしていたジャックだが、何故かナスタがふるふると首を横に振っている。

「私、回復魔法初めて使うんですよ」

「………………………………………………」

 回復魔法を使いこなすのが難しい理由。それは加減の難しさにある。

 この魔法、魔力が少ないと全然傷が治らないが、逆に魔力が多すぎると何故か、本当に何故か、体が爆発するのだ。

 だから世の中の回復魔法使いは皆師匠などから加減を教わるのだが……。

「ナスタさん、ちょっと落ち着こうか? いや落ち着いてください頼むからお願いだから呪文をブツブツ唱えるな!!」

 ジャックの必死な懇願はナスタに届くことはなかった。回復魔法は呪文が短いのだ。

 ナスタの手のひらが白い光を出し始め、その光をジャックの傷口へと押し当てる。

 幸いにも、爆発はしなかった。

「あぎゃあああああああああああああ!? 今まで感じたことないレベルの痛みがああああああああああああああ!?」

 代わりにとんでもない痛みがジャックを襲ったが。

 そんな痛みに耐え抜くこと三十秒。ジャックはようやく解放された。

「よかった! 傷がちゃんと消えましたよ!」

「……、」

 スクッと、ジャックは立ち上がり、ナスタへ向き直る。

 そのジャックから何かしら感じ取ったらしく、ナスタは一歩後ずさる。

「えと、何ですか? もしかし、なくても何かやらかしました?」

「…………」

「す、すいません! なんかよくわからないですけどすみません!」

 直角九十度に腰を曲げて頭を下げるナスタに向かってジャックは手を伸ばし、ポンッと、その頭を優しく叩いた。

「……ありがと、助かった」

 ナスタに聞こえるか聞こえないかの音量で、ジャックは言った。

 顔を上げたナスタは、信じられないものを見たと言いたげな顔でジャックを見ていた。

 さてと、とジャックはわざとそんなことを言いながらナスタの後ろを指差す。

 頭に疑問符を浮かべながらナスタが振り返ると、そこには大量の兵士達が立っていた。その先頭には私大臣ですみたいな顔をした男が。

「え、えと? ジャックさん、これは……っていない!?」

 ジャックが立っていた場所には一枚の紙切れが落ちていた。ナスタが拾い上げると、紙切れにはこんなことが書かれていた。

『頑張れ』

「何をですか!? ってちょっと貴方達なんですか!? なんで私を連れて行こうと!? すっごいいい顔してますけど!?」

 まあまあ、まあまあと兵士達はナスタに言いながらゾロゾロと歩いていく。

 一瞬でナスタから離れたジャックは大きく伸びをしながら一言。

「宿に戻って寝るか」

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