魔獣襲来
ジン達は森にやってきていた。
町から離れた場所にあるこの森には、地元の人はあまり近付かない。魔人が現れた場所というのもあるが、この森は入ると中々抜け出せないことで有名らしい。
「ジンさん、目的地はどこら辺だ?」
「ここから北の方ですね。近くに行けば分かると思います」
ジンは迷いなく進んでいく。辺りの風景は代わり映えなく、道標は一切ない。
だが、ジンはまるで自分の家のようにスイスイと進んでいく。
「ジンさん、ここに来たことがあるのか?」
「いえ、来たことありませんよ?」
「じゃあなんでそんな迷いなく行けるんだ?」
「残滓が残っているので」
「……?」
「ほら、着きましたよ」
ジンが着いたと言う場所は、広い空き地となっていた。この場所だけがくり抜かれたかのように、木々がなくなっていた。
ジンは空き地の中心に向かい、地面に手をつける。
「ジンさん、なんなんだここ?」
「光で焼き尽くされたんですよ。ソロさんの持っている剣、『アマテラス』の力ですね」
ジンは立ち上がり、手を振るう。音もなく現れた剣を、ジンは数回振るい、息を吐く。
「……ここではないようですね」
ジンは剣を投げ捨てる。地面に落ちた剣はそのまま消えてしまった。
「皆さん、次の場所に行きましょう」
「ああ。……ジンさん!」
ドンッ! と何かが吹き飛ばされた音がした。
ジンは振り返り、いつの間にか現れた黄色の剣を振るう。轟ッ!! と風が吹き荒れ、飛んできた木を弾き飛ばした。
「構えてください!」
ジンのかけ声で、彼らは剣や槍などの武器を取り出す。
彼らを囲むように、狼や鷹に似た生物が立っていた。
だが、明らかに普通の動物ではない。狼は通常の三倍は大きく、鷹の翼は鉄のような色をしていた。
そして共通するのが、魔力を持っていることだった。
魔獣。
魔界から来た、強靭で残忍な生物だ。
「おいおい、二十体はいるぞ」
「ヤバイな」
ジンの仲間達は口々にそう呟く。
「だが」
「そうだな。……負ける気はしない」
男達が不敵な笑みを浮かべる。
魔獣が、口を開いた。
「―――。」
なんて言ったのかもわからない『音』が響く。
ゴッ!! と衝撃波が空気を走った。男達が木々に叩きつけられる。
「ぬおっ!?」
「声すら攻撃なのかよ!?」
だがその程度で彼らは止まらない。各々の武器を持って彼らは魔獣に突撃していく。
(……この乱戦状態だと、風で吹き飛ばしたりするのは危険ですね)
ジンは刃のない剣を引き抜く。
(まあ、偶には楽させてもらいますか!)
ジンは笑みを浮かべながら、勢いよく突撃していく。
「くそっ! いきなりのお歓迎だな!」
アレンは叫びながらも剣を振るい、魔獣を纏めて吹き飛ばす。
アレン達は一番被害が大きいという村に向かっていた。途中まで何も問題なく、目的地に辿り着いた。
だが村に着いた瞬間、タイミングを計ったかのように魔獣が現れ、今に至る。
「雷光!」
ズバチィッ!! と電撃が魔獣に当たり、魔獣はそのまま動かなくなった。
「か、カンナ。ごめんね」
「私は大丈夫。サクラは心配しなくていいから!」
カンナはサクラを庇うように立ちながら魔法を放っていく。サクラは魔法を使わない、というより使えなかった。
魔法は精神に大きく影響される。魔力の量も関係するが、本人の気持ちの持ちようで威力に雲泥の差が出てしまうのだ。
サクラは、目の前にいる魔獣に完全に恐怖してしまっているのだ。この状態ではまともに魔法を使うことはできない。
「斬魔!」
突風が吹き荒れ、魔獣を空高く舞い上げながらその体を切り裂いていく。
ジンの仲間達は、アレンから見てもとんでもない実力の持ち主だった。彼らの手によって魔獣が次々と屠られていく。
割と本気で引き抜きたいと思いながらアレンは剣を振るう。
最初は山にいたような魔獣は、もう数えるほどしかいなくなっていた。
「そろそろ終わりそうだな」
「……酷いな。動物虐待じゃないのか?」
声が響いた瞬間、魔獣の動きが止まった。
プルプルと、魔獣の体が震えていた。怯えているのだ。
「お前らもう帰れ。ここは俺がやるから」
言葉に従い、魔獣達は素早い動きで逃げていく。
「待て!」
アレンが追いかけようとした、その直前、
「あー駄目駄目。行かせないから」
トンッと、軽い音と共に男が現れた。
黒いローブを着た男。その髪と眼は銀色だ。
「……魔人」
男は腰の剣を鞘から引き抜く。剣の刃は鉄ではなく、光さえ飲み込んでしまいそうな漆黒の刃だ。
「我が名はヴォルフ。最も強く美しき我らが王の三番目の子供」
アレンの体が強張る。カンナとサクラは、場違いにもヴォルフを綺麗だと思って見惚れていた。
「貴様らにはここで倒れてもらうぞ、人間」
「やれるものなら……」
アレンは剣をヴォルフに向ける。
「……やってみろ!」
ゴッ!! とアレンは大地を蹴った。
カンナは遅れながらも詠唱を始める。
ジンの仲間達も、魔人に向かって突撃していく。
対して魔人は、
剣を振るだけ。
轟ッ!!!! と、あらゆる物が吹き飛ばされた。




