不思議な少年
「〜〜♪」
カンナはご機嫌そうに鼻歌を歌いながら自身の体を洗っていた。
ご機嫌な理由としては、一人で大きな温泉に入っていることだ。
普段、彼女は一人でゆっくりとお風呂に入ることはできない。小さな子供達と一緒にお風呂に入るか、もしくはおばちゃん達に体や髪を好き勝手に洗われてまともに風呂に入れないのだ。
だが今回は違う。サクラ姫には少し悪かったが彼女を生贄にして彼女達は先にお風呂に入っている。
さらに再突撃による被害を避ける為にわざわざ混浴に入ってきている。
時間はもう遅く、しかも混浴なんて所に好き好んで来る人はいないだろう。来てもおじいさんおばあさんだ。
「は〜」
湯船に浸かり、思いっきり体を伸ばす。
「う〜」
隣の男の子もまた、体を伸ばしていた。
「・・・・・え?」
視線を動かすと、カンナのすぐ横に五歳くらいのおかっぱ頭の男の子がいた。カンナは他に誰もいないと思っていたので少し驚いた。
「こんばんは!」
「こ、こんばんは」
男の子が元気よく挨拶してきたのでカンナも挨拶し返す。
と、そこでこちらに走ってくる少女が一人。
「こーらヤイバ! 先に体を洗ってから温泉に入りなさい!」
そう言って少女は男の子を掴み上げる。その状態のままカンナに謝ってくる。
「すいません、弟が迷惑かけて」
「ああいえ、大丈夫ですよ」
少女の歳はカンナと同じくらいだろう。同じ歳なのだろうが、一部分が驚異的に違っていた。
「・・・・・・」
カンナは自分の胸を見る。ないことはないのだが、あるかと聞かれたらあるとは答え辛い微妙な大きさだった。
対して、少女はメロンだ。
「あの、元気がないようですがやはりヤイバが何か・・・?」
「いえ、大丈夫ですよはい。そちらは一切悪くありませんのではい」
「?」
ぽんっと、男の子がカンナの肩に手を置いた。
「きっと、そういうのが好きな人が見つかるよ」
男の子にまで慰められたカンナは言いようのない感情を胸に抱きながらブクブクと沈んでいった。
「・・・ふぅ」
ジンは一人、温泉に浸かってゆっくりとしていた。
夜空を見ながらゆっくりと体を温められるのは温泉の特権だとジンは思う。
何やら混浴の方が騒がしいが、わざわざ混浴に行くジンではない。
確かに人に見られると困る物はあるが、だからといって混浴に行って妙なハプニングを起こすつもりは一切ないのだ。
(昔それで酷い目に遭いましたからね。・・・あれが人生最大のピンチだったかもしれない)
夜空は、昔と変わらず光っていた。
それに比べて、とジンは思ってしまう。
自分はどこまで変わったのだろうか。どこまで来てしまったんだろう。
そんな考えが浮かぶが、ジンはそれらを否定する。
(私は、結局何も変わっていない)
ジンは、何気なしに右手を振った。
途端に、ゴボゴボッ! と水が動き始めた。
水の一部が浮き上がり、形を変え、一振りの剣へと変わる。
「こんな力があり、誰かを救うことができたとしても」
ジンは剣を手に取る。すると剣は空気の溶けるように消えていってしまった。
「結局のところ、私はただ・・・」
ジンは何かを呟きかけ、やめた。
「ただ、なんだって言うんだい?」
「っ⁉︎」
ジンは声が聞こえた瞬間声のした方から全力で離れる。その手にはさっき消えたはずの剣があった。
声がした所には、十歳にも満たないであろう少年が立っていた。
サクラ姫が襲撃される直前、ジンとアレンの前に現れた少年だ。
「そんなに驚かないでよ。僕が何をしたっていうんだい?」
クスクスと、少年は笑う。
ジンは警戒しながらも少年に尋ねる。
「貴方は、何者ですか?」
「さあ? 僕は何者でもあるし、何者でもない。ああ、そんな顔しないでよ。別に謎かけとかじゃなくて本当にそういう存在なんだよ僕は。この姿だって気に入ってるからこの姿でいるだけであって、別にどんな姿にでもなれるんだ」
「・・・よく喋りますね」
「そりゃあ普段僕は誰かと喋ることがないからね。僕が世界にいられる時間はとても短いんだよ。だから今のこの時間はとても貴重なんだ。だから少しお喋りしようよ」
「全力で遠慮させていただきます」
少年から尋常じゃない力を感じているジンは警戒を解かない。
そんなジンに、少年は少しつまらなさそうに口を尖らせる。
「まあいいか。それはまた別の機会にしておくよ。それよりも話しておくべきことを話しておくよ」
「話しておくべきこと?」
「そうだよ〜」
ニッコリと、笑いながら少年は告げる。
「魔人達が戦の準備をしてる件について、なんだけど」




