王都ラルバディア
王都ラルバディア。
ここでは月に一度、王都へ入る税を免除される日がある。
その日には沢山の商人が集まり、市場は大きく賑わう。
市場には食料や衣服はもちろん、外国の特産品や宝石も売り出される。
その中でも一際賑やかで、異常な所があった。売り物は食料や衣服。そして魔法の補助をするアクセサリー。
そしてそれらを売る人は皆、仮面を被っていた。鳥のような物やライオンのような物まで様々な仮面を被っている。
そしてそれを少し離れた所で見ている人が二人いた。ジンとカンナだ。
「どうですか? 仮面をつけていてもちゃんと商売は出来るでしょう?」
ジンがカンナに話しかける。カンナはフードを目深に被っているため表情をから読み取ることはできないが、反論をしないということは納得したのだろう。とジンは勝手に思っておく。
いつもなら王都には数人が商売をしに行くだけで、ジンは来ていなかった。
ではなぜ今日はいるのかと言うと、カンナがこう言ってきたのだ。
「仮面をつけてまともに商売できるとは思えません」
ジンの所では、皆商売をする時は仮面をつけることになっている。
これは別に誰かの素性を隠すため、ではなくただ単に営業スマイルが苦手な皆の為にジンが考案したものだ。
最初は気味が悪いと言われていたものの、今では世間も慣れて商品をよく買って行ってくれている。
それを本当かどうかちゃんと見たいとカンナが言ってきたので、今こうして二人はいる。
「さて、それでは皆さんが商売をしている間、私たちはどうしますか?」
「何も。そもそも私はお世話になっている身なので出来るのであればあそこを手伝いたいですが」
「……やれやれ」
カンナに聞こえない程度に溜息を吐く。彼女はいつもこうなのだ。
真面目、と言うのかどこか遠慮をしているのだ。お世話になっていると言うがジンからすれば彼女も仲間の一人であり、遠慮をしないでほしいものなのだが(子供達の間では優しいお姉さんになっている)
それならばと、ジンはカンナに提案する。
「これから知人に会いに行くのですが、カンナも一緒に来ませんか?」
「構いません」
「では行きましょう」
ジンが歩くとカンナはその後ろを一定の距離でついて行く。
移動の間、ジンはカンナが何か興味を示す物はないのかと観察していたのだが、カンナは何にも興味を示さなかった。
剣、槍、巨大な剣と巨大な盾。様々な武器防具が壁棚に飾ってある。
正に武器屋と言うべき所でジンは男と話し込んでいた。
シャツの上からでも分かる逞しい身体をしているスキンヘッドの男は、親しげにジンに話しかけている。
もっともこの国とは違う言語を使っているため、カンナには何を話しているのか知らない。ただ男がちらりとこちらを見てきたので自分のことだろうと言う事は分かった。
「……?」
そんな時だ。外から声がしてきたのは。
気になったので声のする方へと向かう。ジンには何も言ってないが話し込んでいるので暫くは平気だろう。
「…て! ……して!!」
女性の声だ。悲鳴に近い声を出している。
路地裏に入る。少し奥へ行くと女性が男に絡まれていた。
女性はごく一般的な服を着ているのに対して、男は鎖帷子を着ているだけなので殆ど半裸に近かった。腰には東洋で刀と呼ばれる剣を抜き身の状態で下げている。
カンナはその間に割り込むと、男は少し驚いたがニヤリと笑う。気持ち悪かった。
「おいてめぇ、邪魔すんじゃねーよ。今そこの姉ちゃんと大事な話をしてんだ」
「消えなさいゴミ」
「……は?」
気持ち悪かったのでとりあえず罵っておくと、男はポカンと口を開いてカンナを見ている。
「だ、誰か〜!」
女性は走り去って行く。男はもう興味がこっちに移ったらしく女性には見向きもしなかった。
「おいおいおい、あんま舐めた事言うと痛い目見るぞあぁ?」
随分と威勢が良いが、カンナはチンピラ程度に自分が負けるとは思ってはいなかった。
「痛い目を見るのはそっち。痛いのが嫌ならここから去りなさい」
「……そうか。なら痛い目を見させてもらおうか!」
男が刀を引き抜く。カンナも迎え撃とうと構える。
「おーい何してんだ?」
と、その奥から声と複数の足音が聞こえてきた。
見れば男と似た格好をした男達がこちらに歩いてきていた。
「このわけのわからん奴が絡んできてんだよ」
「なんだ? 女と思って絡んだら男だったとかか?」
「ちげーよ馬鹿。声を聞く限り女っぽいが……」
ぞろぞろとやってきた男は狭い路地裏からカンナを逃がさないように道を塞ぐ。
男の数は七人。もっともカンナは何人いても全員撃退するつもりではあるのだが。
「まあ少しは楽しませて……」
「すいませんすいませんちょっとどいてください」
と男を押しのけて知った顔が現れた。ジンだ。
「あ?何だよ兄ちゃん」
「いやー私の連れがすいません。ほらカンナ行きますよ」
ジンはカンナを連れ出そうとするが、もちろん男達が黙っているわけがない。
「おいおい兄ちゃん。人様に迷惑かけておいてそりゃねーんじゃねーの?」
「迷惑料でも貰おうか。お?」
男達が刀を見せながらそんな事を言う。
ジンはそれを見て大げさに驚く。
「これはこれは。今は手持ちはこれしかありませんが……どうぞ」
ジンはポケットから何かを取り出して男に握らせる。
それは、石だ。宝石とは完全に別物の、ただの石。
「……おい、なんだこれ?」
「知りませんか? それは石ころですよ。地面に沢山あるでしょう?」
「……つまり、なんだ? 舐めてんのかてめぇは?」
ピクピクと、身体が動いているのは怒りからか。
対して、ジンはにこりと笑って言う。
「まともな対応をして貰える立場とでも?」
何かが、切れた音がした。
「……ふざけんじゃねえぞ!!」
男が刀を振り下ろした。 ジンはそれを左腕で受け止め、右手で男に掌打を叩き込む。
ドンッ! と勢いよく男が吹っ飛び、壁にぶつかりそのまま倒れる。
「て、テメェ!」
男達がジンに襲いかかろうとするその瞬間、ズバチィ!! っと地面を電撃が走り、男達は呻きながらその場に倒れ伏した。