伝説の真相
馬を歩かせて一週間、ジン達はシルスベールの首都に着いていた
旅の途中、サクラ姫に随分と昔の話を聞かれた。歴史に興味があるのかもしれない
「転移魔法でも使えれば早いんですが、あれには制限がかかってますからね」
首都、といっても外壁も何もない。景観を損なわないためらしいが、これなら魔獣に襲われても仕方ない気もする
「確か失敗するとそのまま別の次元に放り込まれるからだったか。お前のとこの奴らなら使っても平気だとは思うがな」
「その油断で消えてしまって困るのはこちらです。まあ本当に別の次元に放り込まれるかなんて誰も知りませんけどね。誰かが見たわけでも検証したわけでもないのですから」
そこで静寂が訪れる。十四人もいるのだから、誰かが何か喋っててもおかしくないのに、だ
その理由は、至極簡単だった
「・・・それで、皆さんそろそろ動けますか?」
「「「・・・・・・・・」」」
ジンとアレンが後ろを向けば、そこには馬の上でぐったりとした人達がいた
馬の歩く振動の揺れに合わせることが出来ずに体力を消耗したり酔ったりした結果である。馬もなんか「こいつら乗馬知らねえの?」と言いたげだった
因みに勇者ことソロ・ロウンリナスとその馬は全く疲れてないのだが、彼は元からあまり喋らない
「サクラ姫に乗馬を教えてないんですか?」
「そもそも姫が馬を使うような事態にならないからな。身の危険が迫った時はああなるし」
「うちも馬の乗り方を知ってる人が少ないんですよね。今度教えますか」
「まあこちらも遊戯として姫に教えておくか」
そんな二人の会話を聞きながら、サクラ姫達は思う
何でもいいから早く休みたい、と
「よ、傭兵・・・?父が傭兵を雇っていたのですか?」
「だからわざわざ窓をぶち抜いて来たんだろうが。ああ面倒だから先に証拠を見せとくよほれ」
そう言ってジャックは少女に王族の証である蝶のペンダントを見せる
ペンダントを見た瞬間、少女の顔に希望が満ちる
「では、本当に?本当に父が私のために?」
「しつこい。とはいえ依頼の詳細を聞かされてないから何をすればいいかは知らん」
「そうですか・・・・・お父様が」
(・・・しかし、なあ)
ジャックは口に出さないように注意しながら思う
王族の着る白いドレス。腰まである金髪。宝石のような青い眼。分かりやすいお姫様なのだが、同時に思う
(王に向いてねえなこいつ)
純粋と言えば聞こえは良いだろう。ただそれは無知とも言う。明らかに毒のスープを目の前に置かれても「姫のために作った特別なスープです」とでも言えばあっさり信じそうだった
「おい、一応確認だがお前がナスタ・ハルムイだな?影武者でしたとかじゃねえだろうな」
「は、はい!正真正銘ナスタ・ハルムイです!」
・・・影武者でも同じことを言うのだから『正真正銘』なんて言葉に意味がないのだが、そういったことに頭が回らないようだ
「・・・・・しかし俺のこと知らされてないってことは、お前も依頼のこと知らねえのか。ったく、姫の手助けとか傭兵の仕事じゃねえな」
ジャックは頭を掻きながら呟く
と、そこでナスタがこちらをじっと見ているのに気付いた
「んだよ」
「あの、これからどうするんですか?」
「俺が知るか。てめえで決めろ」
「・・・・・ぅ」
適当に答えると何故か泣きそうになっていた
女子供の涙は嫌いだ。何だか悪いことした気分にさせられる
「あー、お前王位継承者の候補だろ?王位を継ぐための争いをしなくていいのか?」
ジャックが聞くと、ナスタは俯きながらポツリと呟く
「・・・しませんよ。そんなことをして、何になるんですか」
「お前が王様になる。そんだけ」
「その過程で、どれだけの人が傷つくんですか?」
「さあ?百や千なんて風に数えれることが出来れば良い方だろ」
「だったら王位なんてどうでもいいです」
ナスタは顔を上げ、窓の外を見る
そこには、何でもない日常を送る人達が、決して壊してはいけないものがあった
「私の首を差し出して、それで民の皆さんが傷つかないようになるなら・・・」
「なわけねえだろ、アホか。お前の頭の中はお花畑なのか?」
「・・・え?」
ジャックはポケットから紙を取り出してナスタに渡す
「こっちだって一応調べたんだがな。なんだよこの候補者共、王族の親戚やら大昔の王の弟の末裔とかはそれでも分かるが、食べ物一番作ってるからとか外国から沢山輸入してるからとか辺りは全く関係ない。なのに王になる資格があるとかほざくような奴らだぞ?こんな奴らが王になったら圧政暴政の始まり始まりーってな」
俯くナスタの胸ぐらを掴み、無理やり目を合わせる。泣きそうになっているが今は無視する
「一応聞いておこう。お前の言う民に、こいつら候補者は入っているか?」
「あ、あの、それはどういう・・・?」
「二度は言わん」
ナスタは考えるように目を瞑り、答えを出す
「いえ、彼らは善良な民ではなく、王位を奪わんとする反逆者です。私の言った民の皆さんとは違います」
「・・・・よーし、それならやることは簡単だな」
手を離し、ジャックは笑う
「お前は民が傷つくのを嫌がっているが、候補者共は民ではないと。・・・なら本当に簡単な話だ。その候補者だけを殺す。それで全部解決だ」
「む、無茶です!彼らの下には何千人も兵士がいるんですよ⁉︎」
「あん?あー兵士共も民に入ってんのか。まあ吹っ飛ばされて気絶するような奴らだし大丈夫だろ」
つまり、ジャックはこう言っているのだ
何千といる兵士を無力化し、候補者だけを殺してやると
「・・・・・そんな無茶な事、たった一人でやるつもりなんですか?」
「一人じゃねえよ。自分を数に入れるのを忘れてるぞ、ナスタ次期女王様」
驚きのあまり上手く喋れないナスタ
その身体をジャックは抱き上げた
「よし。早速行くか」
「・・・・・・・・・・え?いや、あの?何で私は抱き上げられたんですか?」
「そりゃお前、こんな所に放っておいて死なれたら意味ねえだろ?だからお前を連れて行く方が安全だろ」
「いや、障壁を張れば、え?あの、扉はあっちで、そっちは窓なんですが・・・・」
ナスタの声を無視して、ジャックは窓から飛び降りる
「きゃあああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎⁉︎⁉︎お父様助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」
「うるせえ‼︎つーかお前の親父死んでるだろうが‼︎」
こうしてジャックの、英雄の伝説は始まった
伝説の真相なんて、こんなもんである




