温泉と休養
「というわけでシルスベールに行くので、皆さんには留守番をお願いしたいのですが」
「そりゃあ構わねえけどよ」
ジンは数人の大人と一緒に食堂にいた。今は深夜なので食堂にはジン達以外には誰もいない
「・・・ジンさん、シルスベールって、確か温泉があったよな?」
「ええ。天然の物で、一部の地域がまるごと温泉街になっていましたね。疲れどころか病気さえ消えてしまうとそれなりに有名な」
「もう一つ確認だジンさん。その依頼はシルスベールからジンさんに直接来たものであって、この国は一切関わってない。そうだよな?」
「はあ、それが何か?」
そこで大人達はジンから離れて何やらゴニョゴニョと話し合う。何やら戦力だの娯楽だの説得だのの単語が聞き取れる
数分経って大人達はジンの所へと戻ってくる
「ジンさん、人手がいるんじゃねえのか?」
「人手ですか?・・・まあ確かに私個人に来たものですから騎士団の援助を当てにすることは出来ませんし。シルスベールもそれなりに広いですし、そもそも魔獣が何処から来てるのか分からないので国の外に出て捜索する必要もありますからね」
「だからさ、俺らを人手として連れて行くのはどうだ?騎士団の連中の力は知らねえがそんなに劣ってることはねえだろ?」
「・・・そうですねぇ」
確かにこの牧場にいる人達は下手しなくても騎士団よりも実力がある。しかしそれでも一般人であり、こういった危ないことは騎士団がやるべきことなのだ
そして、
「なんだか別の目的があるような気がするんですが」
「はっはっは!ジンさんそんなわけないじゃないか!」
そう言いつつも目がジンを見てるようで見ていない。確実に別の目的がある
「遊びにいくわけじゃあないんですよ?」
「もちろんわかってるさ。ジャック様のお邪魔にならないように、ここにいる中で特に強い奴らを連れて行くさ」
・・・ちなみにここにいる大人達はかなりの古参であり、実力もかなりあるので間違いなく行くつもりなのだろう
ジンは溜め息を吐き、諦めたように言う
「・・・わかりました。ただし、個人的な知人も連れて行くのでそのことを頭に入れておいてください」
「よしわかった!明日このことを他の奴らに伝えといてやる」
大人達はそう言ってさっさと食堂から出て行く
一人残されたジンは大きくあくびをして呟く
「あそこの温泉、昔作ったのにまだ機能してるんですね・・・・・」
「というわけでシルスベールに行くので一緒に来てもらえませんか」
ジンはそう言ってアレンを誘う
ちなみに今二人がいるのは王都ではなく、その近くの草原だ。王都の中では人の視線が多すぎるのだ
「しかし、なんと言えばいい?『ジャック殿と出かけてまいります!』なんて言って通じると思うか?」
「大臣に通じそうにないですよね・・・。普通に疲労回復じゃあ駄目なんですか?そもそもアレンかなり怪我してたと思うんですが」
アレンはそれを言われて今気付いたような顔をする。全身包帯だらけの筈なのだが本当に人間なのだろうか?とジンは思うのだが人のことは言えない
「・・・シルスベールって、確か温泉があったよな?病気や怪我が治ったりするっていうそれなりに有名な」
「そこらへんで攻めてみてください。明後日また行きますのでその時に結果を教えてください。後シルスベールに行くのは一応一週間後を予定してますので」
「わかった」
アレンがそう言って立ち去った後、見える限りだと誰もいない草原でジンは振り向く
「サクラ姫も一緒に行きますか?」
パンッ!と音が響き、サクラ姫が苦笑いしながら現れた
「いえ、少しくらい抜け出すだけならともかく、数日も城から勝手に離れるわけには・・・」
「行きたい気持ちはあるということで受け取りますが、それについてはバレなければ問題ありませんよ」
ジンはニヤリと擬音が出そうな顔で提案する
「昔、女王陛下がお忍びで街に出る時に使っていた魔法をサクラ姫に教えましょう」




