新入り
とてつもなく大きな牧場で、それに釣り合うだけの大量の人が作業をしていた。
男女共に筋肉質な腕を使って作業をしている
そんな牧場に馬車がやって来た。乗り手もかなり筋肉質だ。
「帰ったぞー!!」
乗り手が大きな声を出しながら馬車は牧場の門を通り入ってくる。
たくさんの人が馬車を迎えに向かい、馬車から荷物を下ろしていく、
そこから荷物に紛れて一人静かに降り立つ。
フード付きのローブを来て更にフードを目深にかぶっているため男か女かがわからない。
その『誰か』は他の人が荷物を運んでいるのを手伝うわけでもどこかに行くわけでもなく、その場に佇んでいる。
やがて全ての荷物を運び終えたのか馬車はどこかへと行く。
「おい、行くぞ嬢ちゃん」
顔に大きな傷がある男が呼びかける。『嬢ちゃん』は男の後ろをついて行く。
二人は歩き続け大きな四階建ての建物に入っていく。そのまま階段を上り四階へ行き、一番奥の部屋の前に行く。
「おーいジン、新入りだ」
ノックもせずに男は扉を開ける。
部屋はそれなりに広く、壁際には本棚が並んでいる。書斎のようだ。
大きな机に座っているのは二十代程度の男。白と黒を基調とした服を着て、長く伸びた赤髪を三つ編みにして纏めている。
「ラルク、ノックくらいしてください。……新入りってその子ですか」
「そうだ、名前は……聞いてなかったな」
「おーい。しっかりしてください」
「カンナ」
『嬢ちゃん』がフードを外し、素顔を見せる。
綺麗な顔に綺麗な金髪が合わさり、魅力的な容姿を見せた。少女の青い目がジンと呼ばれた男を見つめる。
「カンナと言うのですか。よろしくお願いしますカンナさん」
「カンナでいい」
「そうですか、カンナ」
と、そこで控えめのノックがされた。
どうぞとジンが言うと失礼しますと言いながら入ってくる。
「あ、お父さんいた」
「よおリーフ」
入ってきたきたのは小さな男の子だった。顔に大きな傷のある男、ラルクを父と呼んだ。
「お父さん、お母さんが呼んでたよ」
「え? あ、あーあれか……わかったありがとなリーフ」
ぽんぽんとラルクはリーフの頭を優しく叩く。
リーフに向かってジンは言う。
「リーフ、すみませんがそこのお姉さんを寄宿舎に案内してくれますか?」
「いいよ! お姉ちゃん行こっ!」
「へ? わっわっ引っ張らないで!」
リーフはカンナの腕を引っ張って部屋を出て行く。
「それじゃあ俺も失礼します」
「はい、ご苦労様です」
ラルクも部屋を出ていき、一人になったジンはポツリと呟く。
「…………」
その呟きを聞いた者は、いない。