英雄の再来
その光景を見た者は、生涯忘れることはないだろう
「またか!いい加減にしなさいよ!!」
ヴァージリアは叫びながら杖を振るう。現れたのは太陽の光を遮るほどまでの数の剣だ
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!」
「・・・・」
男は何も言わず、静かに長大な剣を振るう
光が生まれた。それを認識した頃には、剣は全て消え去っていた
「・・・ふざけんじゃないわよ、ふざけんじゃないわよ!!」
ヴァージリアは杖を振るおうとして、気づいた。杖はなく、代わりに手に残ったのは何かがの燃えかすだ
「・・・・また、私は死ぬのね」
ヴァージリアは腕を左右に伸ばし、男を睨みつける
「次は殺す」
男は応えない。ただ静かに剣を振るい、目の前の魔人を斬った
左右に分かれながらも、魔人は最後に三日月のように口を歪ませて言う
「そして貴様らは死ね!」
魔人の肉体が燃え、世界から消えた
ガゴンッ!と太陽が消え、月が現れた
そして夜空を埋め尽くすは、星のように輝く光の矢
「な、なんだ?いきなり夜になったぞ!?」
「これはまずいですね・・・」
ジンとアレンは床に座り込んだまま空を見てそう呟く。その近くには裸の少女が大量に転がっているのだが幻術を解除した瞬間こうなったのだからこれはしょうがない
「勇者さんの持ってるあの剣の力は太陽がないと使えません。このままではあの矢が全部落ちてきます」
「くそ!ふんぬぬぬぬ!」
アレンは全身に力を入れて立ち上がろうとする。鎧の穴から血が吹き出してきたので慌ててジンが止めに入る
「流石にこれ以上は無理ですって!」
「だが、止めなければ、たくさんの民が・・・っ!」
力なく倒れるアレンを必死に支えて横に寝転がす。ふぅと一息
「別に手がないわけではありません。ここは大陸最大の国、ラルバディアですよ?幾らかの対抗策がないわけないじゃないですか」
倒れたアレンを置いてジンは歩く
「ここで休んでいてください」
「どう、するつもり、だ?」
「それはもちろん」
こつ、と足音が響いた。ジンはやってきた年老いた男に向かって呟く
「・・・約束を果たさないといけませんね」
年老いた男、銀色の蝶の胸に付けた王は何も言わずに歩く
アレンがその姿を捉えた
「何故ここに・・・」
その呟きは声になってるのかも怪しいほど小さかった。だが王はきちんとその言葉を聞いていた
「務めを、果たすために」
王はアレンの前に立つ
「アレン将軍。いや、我が国の英雄よ」
王はアレンの手をとり、強く握る
「サクラはまだまだ若い。何も知らなさすぎる。娘が立派な王になれるように、手助けをしてやってくれ」
「な、にをいっ・・て」
王はアレンから数歩ほどの距離を取る
「血の盟約に従え、夜の王よ」
バチンッ!と夜空を雷光が飛んだ
「我は求める。あらゆる物から護る力を」
バチバチバチバチバチッ!!と雷光が何度も飛び、王都を覆い尽くすように巨大な魔法陣が現れる
「我は与える。我が身に宿る全てを」
「陛下!?何を!」
アレンの叫びは、王には届かない
「それらをもって、契約は成立せ」
「ほいっ」
「んむぐ!?」
ジンが王の口に布を突っ込んだ結果、夜空の魔法陣は消え去った
布を吐き出して王はジンを睨みつける
「何をする!」
「今一番死んだらいけない人が真っ先に死のうとしてどうするんですか。サクラ姫がまだまだ若いならもう少し王が頑張ればいいだけです。このくらいのこと私一人でなんとかなりますよ」
「じ、ジン?お前は何をするつもりだ?」
ジンはアレンの問いに笑って答える
「少しばかり、昔に戻るだけです」
そう言って空を見て、一言
「『飛翔』」
ジンの背中から翼が生え、飛ぶ力を与えた
「・・・ジン、お前は一体・・・・」
ただし、その翼は普通の、天使のような白い翼ではなかった。その背から生えた翼は、まるで幾つもの剣を無理矢理繋げて翼の形をとっているようだった
ガシャン!と普通はありえない音を翼が出し、ジンの身体は勢い良く飛んで行った
呆然とするアレンの耳に、何故かジンの声がはっきりと届いた
『さあ、久しぶりにこの名を名乗りましょう』
空にいるであろうジンは、こんなことを言った
『我が名はジャック』
その名前は、アレンが最も尊敬する人物で
『人々に希望を与える者なり!』
その人物は、アレンの一番の親友だった
轟音が鳴り、途轍もない振動が訪れた
空は裂け、大地は震えた。星空の如く存在した光の矢は、不可視の力に飲み込まれて消え去った
声が聞こえる。英雄の再来を喜ぶ人々の声が
その英雄は、誰に聞かせるわけでもなく、呟く
「我が名はジャック」
誰にも聞かせられない、自分の罪を
「この世で最も人を殺した『殺人鬼』なり」
英雄は二百年の時を超えて、世界に姿を現した
人々は喜んだ。希望の、英雄の再来を
英雄の意味を、誰も知らずに




