勇者
「つまらないわね」
王都の上空で、魔人のヴァージリアは一人呟いた。とても寂しそうに
黒の杖を振るう。それだけでヴァージリアの周りを埋め尽くすように大量の剣が現れた
「英雄といっても、所詮は人間ね」
それら全ての剣が一点へ集中していき、巨大な剣を作り出す
「・・・此処を拠点にして、私たち魔人の・・・・」
呟きはそこで止まった。その視線は何処か遠くを見つめていた
「・・・まさか、また?」
ぽたり、と血が垂れた
「・・・え?」
ただしそれは自分の、カンナの物ではなかった。目の前の赤い髪が、血の赤に変わった
「っ、はは、防げるかと思いましたが、やはり無理でしたね・・・」
「・・・ジン、さん」
カンナの目の前には、カンナを護るように立つジンがいた。氷柱が背中から突き出している
とても痛いはずなのに、大丈夫じゃないはずなのに
「サクラ姫と共に逃げてください。ここは大丈夫ですから」
ジンは微笑みながらカンナに言う
「大丈夫ですよ。こういう時に都合良く来てくれる人を知ってますので」
「で、でも・・・」
「・・・いけ!」
ジンにしては珍しく命令口調で、カンナは驚きながらもサクラ姫を背負って走り去っていく
「さて、本気でどうしますかね・・・」
ジンは剣を杖のように使って身体を支える。正直足腰にきていた
その時、ガゴンッ!と天井を突き破って誰かが落ちてきた。騎士鎧を着た男は長剣を持ったまま立ち上がり、ジンを見て驚く
「ジン、随分やられたな」
「言える立場ですかアレン」
アレンの鎧には剣で貫かれたような穴が幾つもあり、そこから血が垂れていた
「あの魔人の幻術には参りましたよ。まさかこんなことまで出来るとは」
「・・・・待て、幻術?あれはどう見ても創造魔法の類だろ!?」
「どういう使い方をすればこうなるのかは知りませんが、あれは幻術ですよアレン。そもそも創造魔法は神が使ったとされる魔法ですよ?魔人や人間が扱えるわけがないでしょう」
「・・・二百年前の英雄は似たような魔法を使ったらしいがな」
そうこう話していると肉の前に幾つもの魔法陣が現れ、雷光が飛んだ
「ふんっ!」
アレンが気合と共に剣振るい雷光を振り払う。それを見てジンは呆れたような感心したように言う
「その傷で魔法を打ち払うとか十二分に人間やめてませんか?」
「まだ俺は人間のつもりだ。・・・っと」
言いながら飛んできた炎の球を切り落とす。その姿を見てジンは微笑みながら言う
「では、少し彼女達を足止めしてもらえますか?こちらで幻術の解除をしてみますので」
「いや駄目だ。まだ上に魔人がいる。このまま放っておいたら何がおきるか・・・」
そう言いながらアレンは剣を振るおうとする
そのとき
キュガ!と全てを塗りつぶすかのように莫大な光が降り注いだ
「なっ・・・!?」
「っ!来ましたね・・・随分と派手なご登場で」
そう言ってアレンがぶち抜いた穴から上を見る
そこには
「また、またなのね・・・・」
ヴァージリアは憎たらしそうな顔をして目の前の男を睨みつける
白金の鎧を着た黒髪の男は何も語らない。無言のまま男の身長の三倍はある長さの剣を構える
「また、お前か、人間!」
男はただ一言呟く
「アマテラス」
王都の空に、第二の太陽が生まれた




