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一番、側にいること

作者: 洋明

「今度の日曜日、空いてる??」



透は、また沙也に遊びの誘いをかけていた。


「彼氏と遊びに行くから無理だよーだ。」



そう言うと沙也は舌を出して透の方に見せた。



「相変わらず、幸せそうだな。うらやましい限りだぜ。」



そう言うと透はエプロンをつけ、売り物の果物の手入れを始めた。


沙也も、複雑な顔をしつつも大きな資料の入ったファイルを抱えて、駅へと急いだ。



透と沙也は幼稚園から高校まで同じで、お互いに兄弟みたいな感じだった。



二人とも仕事は違う分野へと進んだが、地元に残っているということで今でも、顔を合わせれば、何気ない話を交わしていた。



最近、沙也には彼氏が出来た。



ある日の夕暮れ時、沙也が透の果物屋の近くを通る。



「ヨッ!下向いてっと、老けるぞ。」



いつも通りの明るいノリで透は沙也に声をかけた。


でも沙也は、透の顔をチラッと見ただけで、そのまま通り過ぎた。


透は沙也の後ろ姿を口を真一文字にして、角を曲がるまで見続けた。



(仕事でミスでもしてヘコんでんだろうな。)



透は仕事に戻り果物の手入れを始めた。




部屋の灯をつけ、沙也は荷物を下ろして、その場に座り込んだ。



膝には一滴一滴、滴が落ちて行った。



(なぜ?私が何をしたって言うの?)



沙也は自問自答を繰り返していた。



彼氏にフラれたのだ。


昼休みにランチを一緒にとろうと彼氏に誘われ、食事を終えた瞬間に彼氏に切り出された。


しかも、別に好きな人ができたという、この上ないフラれ方だった。



沙也が呆気にとられている間に彼氏は店を後にしていった。


なんの言葉も言わずに。。。




沙也は、部屋の中にある彼氏との写真を全部集め、灰皿に入れてマッチで火をつけた。



フラれたことより、裏切られたことにショックを受けていた。



夜景を見ながら体を抱き締めて囁いてくれた言葉は嘘なんだと分かった瞬間だった。



涙にくれながら、沙也は冷蔵庫からビールを取って一気に飲み干した。



酔って忘れたいが、こんな時に限って酔えない。。。



ポロポロ溢れてくる涙。



でも、支えてくれる人は側にはいない。



孤独感と寂しい気持ち、そして悔しさが一気に襲いかかる。



紛らす為にビールを飲んだ。



一本、二本と飲み五本目を飲もうとした時、ケータイが鳴った。



「誰だ!?この野郎。」



さすがに酔いが回った状態になっていて独り言も声がデカかった。


「許してって言ってもゆるさなぅいんびゃから〜」



呂律が回っていない上にいきなり意味の分からないことを言ってしまった。



透は、かなりビックリしたが、とにかく話してみた。



「何酔ってんだよー?大丈夫かよ。ヘコんでんか??」



「なぁ〜んだ。バカ透かにょ〜エヘヘ、酔ってまーす。」



「オイオイ!ホントに大丈夫かよ?つぶれてるじゃんかよ。」



「透には、なんもわかんないんだもん。わかる訳ないもん。。ウッ。。グスッ。。。。」


泣き声が聞こえた瞬間、透は沙也がどんな心境かを少し悟った。



「今から、すぐ行くから待ってろ!」



そう言うと透は電話を切り、自転車にまたがり沙也の部屋へと向った。




沙也は電話をベッドに投げて、その場に横たわった。



「男って、なんで急に色々切れるのかな。。。意味わかんないよ。」



独り言をつぶやくと涙がまた込み上げてきた。



更にビールを飲もうと冷蔵庫を開けた瞬間、ドアが勝手に開いた。


そこには、自転車を全速力でこいだせいで息切れしている透がいた。



「疲れたぜ。酔払いさん、大丈夫ですか?」


沙也は驚いたが、透の顔を見た瞬間、安心してまた涙が出てきた。


「なっ。。何泣いてんだよ?驚いたのか?

あっ!ホントに来ると思ってなかったんだろう!?」



透は、なんとかいつもの調子で話していた。


沙也は、たまらず透の胸に抱き付いた。



「オイオイ!そんな関係じゃねぇだろうよ。」



透は、動悸がする程驚いていた。



「私って、魅力ないかな?安い女なのかな。」



沙也は透の瞳を見つめながら言った。



「とにかく、座れよ。なにがあったんだよ?意味わかんねぇよ。」


沙也は透に彼氏と別れたことや、いきさつを涙ながらに話した。



透は腕を組みながら、下を向いてジッとテーブルを模様を見つめていた。



数分間、沈黙が続いたが、透は重々しい感じで口を開いた。



「沙也が悪いことはないさ、、、他に女作ったヤツが悪いんだ。。かわいそうにな。辛かっただろう。ホントに最近、幸せそうな顔してたもんなー。いつも遊びに誘ったら来るのに、彼氏できてから遊びに来なかったもんな。それほど好きだった男なのになっ。。。」


透も目頭が熱くなってきていた。



「。。。ありがとう。」



沙也は真っ赤になった目を細くして、精一杯の笑顔をして透に言った。



「女のくせに強がんなよ。」



透は沙也をソッと抱き締めた。



沙也は、初めて透を男なんだという意識をし始めた。


そして、なぜかホッとしている自分がいることに気が付いた。



「初めから、あんたを選んでたらよかった。こんなことにならなかったのに。。。」



また涙を流す沙也に透は、言った。



「沙也の涙は、俺が預かった。ずっと返さないからな。約束だ。」


沙也は笑顔を透に見せて言った。



「約束だったら、もう一つ約束してね。

私を守ってくれるって。だって透の胸が一番安心できるってわかったから。」



透は鼻で笑いながら言った。



「守らせていただきますよ。」





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