幕間4
指通りのよさそうなあいつの毛が月光のもとにさらしだされ、クルミ色のそれが吹き抜けた風にそっと揺れる。
「けんか…しちゃったんですね。」
呟かれた声は頼りなげだった。
「あいつらはな?ちゃんとお互いを信頼していた。けっして疑っていたわけでも、信じていなかったわけでもない。でもな?だからこそ何も言わなくても相手に伝わっていると思っていた。それがお互いの意思の不一致を招いたんだ。」
よくある話。
「世の中には言わなくてもいいことがある。でも言わなければ伝わらないこともある。それを怠ったあいつらがさようならをしなくちゃならなかったのは仕方がねぇーことなんだよ。」
「ッ!?」
隣から息を吸い込む音が聞こえた。オレが横を向くとあいつは大きな瞳をさらに見開いて、金魚のように口をパクパクさせている。
何かおかしなこと言ったか?
「な、なにをッ!!」
驚きに見開かれたヤツの瞳がつり上がり、見る見るうちに顔が真っ赤に染め上げてられていく。
ありゃ?もしかしなくても怒らせた?
「あなたはなにを言っているんですか!!普通ネタバレするヤツがいますぅ!?」
「はぁ?」
オレはパチパチと瞬きをする。そういえばネタバレしたような、していないような。
「これからウサギさんとネズミさんって別れちゃうんですか?本当に?っていうか、なんで言っちゃうんですか!!このバカ!!」
あいつの勢いは止まらない。
「今後の展開を教えられた物語ほどつまらないものなんてないじゃないですか!!それを分かっています?分かっていませんよね?だいたいあなたは―」
あぁ、もぉー
「ごちゃごちゃうるせぇーんだよ!!」
キャンキャンわめき散らすあいつが煩わしく感じられ、オレは逆に声を荒げた。
「お前だってなんとなく別れちゃうのかな?ぐらい思っていただろうが!!」
「うっ…それは!!少しは思っていましたけど…でも、でも、だからって―」
「うるさい!!すでに展開を読まれちまっているんだから、今さらネタバレもくそもねぇーだろうが!!そうなっている時点でこの話は面白さにかけるものになっちまっているんだよ!!」
「あ、あなたそれを自分で言います?」
「あぁ、言ってやるとも!!だいたいオレは言ったよな?どこにでもあるような話だって。たいした話じゃないって。世界に何十もある物語と全く異なった話をオレにしろっていうほうが無理な話じゃねぇーか!!」
ふん!!まいったか!!
「でもな?だからこそ知ってもらいたかったんだよ!!」
あいつは軽く目を見張った。
「どこにでもあるようなことだからこそないがしろにされちまうものがある!!どこにでもあるようなことだからこそ忘れてほしくねぇーと祈る思いがある!!」
どうかあいつらの思いを。オレには真似できない強さを知っていてくれないだろうか?
ガラス玉のようなヤツの瞳にはひどく真撃な眼差しを向けるオレの姿が映し出されていた。