幕間2
「と、まあこれがこの物語の出だしってやつだ。だいたいどんな動物たちがいるかわかっただろ?」
オレはあいつの瞳を覗き込んだ。すると眉間にしわを寄せて口をへの字に曲げるヤツの顔とご対面する。
ケケケ、変な顔。
「おいおい、何がそんなに不満なんだよ。」
「そりゃ、物語だからしかたがないですけど、ずいぶんとニンゲンに関してあいまいなんですね?」
ふふん。そんなことか。
「当たり前だろ。森に住んでいる動物がニンゲンに出会う機会なんてそうそうありゃしねぇーよ。あいまいになっちまうのは仕方がないことなんだ。」
ヒョイと肩をすくめてそう言ってみせても、あいつの眉間から皴が取れることはなかった。
ケケケ、だからその顔やめろって。笑えるだけだから。
「でもでも、ニンゲンってもっとカッコいいものじゃないですか。強くて、優しくて、なんでもできて。バカとか変なもの扱いなんて酷すぎます。」
優しい?あいつらが?
オレの口元に冷めた笑みが浮かぶ。やれやれこいつはどうもまだニンゲンってものの本質をわかっちゃいない。まあいいとこのお坊ちゃんなら仕方のない話か。
「なんですか、その顔。なにか言いたいことがあるならはっきり言ってください。」
「いや、なんでもねぇーよ。」
ざわざわとした思いが胸の中に痞えて、オレの心をかき乱す。ふと空を見上げれば何の曇りもなく輝き続ける星たちのそれがオレを見つめ返した。その輝きは隣に座るこいつの瞳とよく似ている。
真っ直ぐなヤツは嫌いじゃない。
「どうか、しましたか?」
急に黙り込んだオレを心配してか、あいつが遠慮がちに声をかけてきた。それにへらりと笑うことで答える。今はこいつに話をすることが先決だ。思い出ならあとで十分浸ればいい。
「悪い、悪い。どうでもいいこと思い出してな?それより話の続きといこうじゃないか。」
怪訝そうな眼差しがオレに向けられるが、あいつは結局何も聞かなかった。もしかしたら気をつかってくれたのかもしれない。変なところで大人なヤツだ。
「そうですね。ぜひ続きを聞かせてください。」
ニコリと微笑みかけられオレの口元が自然とほころんだ。これではどちらが慰められているのかわかったものではない。
オレは少し照れくさくなってそれを誤魔化すように鼻の頭をかいた。
「ん、まぁ、その、あれだ。これからウサギは夢を見るんだよ。」
「ゆめを?」
「あぁ、ネズミと初めて出会った日のことを、な?変わった奴らだから、あいつらの出会いも変わっているんだぜ?」
ふっと息をつくような笑が飛び出した。
ウサギにとって過去の記憶は美しいものだったのだろう。まるで万華鏡をのぞいたときのように、それはくるくると色と形をかえ、いつまでも心を浮き足たたせてくれる。そんなものであったはずだ。
オレの過去がそうであるように――