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いつもの日常

全ての物語に終わりがあるように、長々と語っていたオレの話もこれで終わりを迎えた。その後のことをオレは知らない。そう、一部を除いて―

「やっぱり。」

「ん?」

「これは本当にあった話なんですね。」

 疑問ではなく断定するようにあいつはきっぱりと言い切った。ヤツが真っ直ぐと見つめる先には薄汚れた滑り台がある。

「ふふふ、どうしてそう思うんだ?種族が違うってオレは言ったはずだぜ?」

 つき物が落ちたように心は穏やかだった。浮かぶ笑みは自然とついて出たものだ。

「確かに僕とあなたは同じ猫だからこそお互いを理解することができます。けれど違う種族だからといって理解し合えないと言うわけではない。そういうことなんですよね?」

 やわらかな笑み。

「ウサギさんとネズミさんのように―」

 囁くような言葉は風に運ばれて空気の中に溶け込んでしまう。ヤツの口元にたたえられたひげがそよそよとなびいていた。

「あんた似ているよ。」

「?」

 向けられたのは疑うことを知らないような色を持つ瞳。

「ウサギの譲ちゃんに、な?」

「ウサギさんに?」

 あどけない仕草の中に潜むキラキラとした輝きはひたむきな愛情を受けたものだからこそ持ちえるものだった。

「この話をオレに語ってくれたあのウサギの譲ちゃんも酷く真っ直ぐな瞳を持っていた。ニンゲンに大切なものを奪われて、それでもあいつらを許し、信じ続ける強さを持った瞳を持っていたんだ。」

 そして疑いようのない信頼を寄せることができる相手がいるからこそ生み出されるきらめきだ。

「オレにはまねできない、あいつらを許すことなんて。ましてやもう一度信じるだなんて。」

 オレの中でくすぶっている後悔は、自身への苛立ちと深い憎しみを伴って心の奥底に根を張っていた。それは一生オレの中から消えてくれはしないだろう。そうすることを自分は許せないだろうから。

「…あなたも奪われてしまったんですか?」

 そんな泣きそうな顔をしなくてもいいだろうに。

「あぁ…」

 浮かぶのはいつもオレに溢れんばかりの信頼を寄せてくれた瞳。

「大切な命を、な?」

 オレにも大好きだったヤツがいる。守りたいとせつに願った命があった。けれどそれは気がつかないうちに自身の手から零れ落ちてしまって、もう二度と戻ってはこない。

「仕方がないこと…だったんだろう―」

 だからといって心は納得せず、憎む気持ちをなかったことにはできないだろうけれど。

「オレたちがニンゲンに愛されなかっただけなんだから、な?」

 自嘲に満ちた笑みが浮かんでしまう。

「ニンゲンの世界に愛されるものとそうじゃないものがいるように、ニンゲンに愛される動物とそうじゃない動物がいる。愛された動物は彼らの庇護を受け、そうでないものは忌み嫌われる。ただそれだけの話さ。」

 淡々と語るオレの言葉にあいつは酷く傷ついた顔をした。けれど真実は変えることができない。オレは、オレたちはニンゲンに歓迎される命ではなかった。でも―

「あんたはニンゲンに愛されている。」

 すっと視線を向けるヤツの耳がピクッと動いた。ふふふ、そんなに怯えなくてもあいつをどうこうしようなんて考えちゃいないのに。

 オレはやわらかく問うて見た。

「あんたを大切にしてくれているニンゲンがいる。あんの帰りを待っていてくれるニンゲンがいる。そうだろ?」

 あいつは辺りに視線をさ迷わせていたが最後には下を向き俯いた。

「僕、けんかしてしまって。」

「うん。」

「だから、嫌いだって思って。」

「あぁ。」

「でもいつでもあのヒトは優しくて、温かで。」

「…」

「やっぱり大好きなんです。けんかをしても、嫌な思いをしても嫌いになりきれない。」

「…そうか―」

 オレは尻尾を使ってヤツの頭を二、三度ぽんぽんとたたいた。

「お前は信じているんだな。」

「しんじる?」

「あぁ。本当に自分が心から信頼しているヤツは裏切られたって、許してまた信じることができもんなんだぜ?つまり、そいつのことをとても大切に思っているってことだ。」

 オレはパチンとウィンクを決めた。あいつの口元が花のようにほころぶ。

「僕はただいまと言えるでしょうか?」

 オレは笑う。

「いいたければ言えばいい。おかえりと返してくれるヒトがいるんだから。」

 あいつはその言葉を聞くと前足に力を入れてグッと勢いよくベンチを蹴った。そして鮮やかな弧を描きながら音もなく地面に着地するとクルリと振り返りオレに向かって深々と頭を下げた。

「ありがとうございました。」

 逆にオレはあいつに背中を見せると尻尾をゆらゆらと左右に振ることでそれに答える。ふっと空気を震わせるような笑い声が耳に聞こえ、それに続いて軽やかに地面を蹴る音が聞こえる。

 偶然の出会いにはこんな別れが丁度いい。しばらく耳をそばだてていると、あいつが走り去る音も聞こえなくなる。

「やっと…」

 呟く声を聞いているものは誰もいない。

「ゆっくりできそうだ。」

 いつもの日常が時を刻み始めた。

 オレはうんと体を伸ばすと尻尾を折りたたむように体を丸めて座り目を閉じた。こんなうす汚れたベンチではいい夢など見られそうもないがそれならそれでいい。夢はいつか覚めてしまうものなのだから。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

個人的にはハッピーエンドの結末も考えていたんですが、それはそれでかき始めると長くなりそうで、書き上げる自信がなかったんです(笑)

あと作中では特に明記していませんが、幕間に登場するやさぐれた猫(通称ネコくん)は昔恋人を人間にひき殺されたという過去がありまして、あんまり人のこと好きじゃないんです。だから同じように大切な人との別れをつくった原因である人をいつまでも信じようとするウサギくんのことをバカだなと思いつつも凄いなぁと思っていたりもするって感じで・・・

ハッピーエンドの結末ではネコくんが大いに大活躍する予定でした(笑)

本当はネズミくんとウサギくん(ちゃん)の信頼関係とか、動物たちとの信頼関係とかもっと丁寧にかきたかったんですが、それらを上手く表現できるだけの力量がなく断念した自分が情けないです(泣)

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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