02旦那様とメイド 「ある日の朝」
「失礼します、旦那様」
「うむ」
屋敷の中で一番大きい扉を開けると、そこにはたくさんの本棚と作業をするためだけに置かれた机が置いてあった。そして、その部屋を唯一使うことができ、さらにはこの屋敷の主でもある主人がいた。
「今朝の朝食をお持ちいたしました」
「いつもすまないな。今日こそは子供たちと一緒に朝食を食べれると思ったのだが……」
「仕方ありませんよ。前日にいきなり仕事がやってくるのは、いつものことですから」
「だとしても、少しは働いた分ぐらいの贅沢をしてみたいものだがな」
そういいながら、主人は仕事の書類を汚さないようにどかしながら、メイドによって運ばれてきた朝食を置くスペースを作る。
金持ちと呼ばれるからには、それなりに代償が必要となる。中には遺族からの遺産を引き継いで、年がら年中遊びほうけてる貴族もいると聞くが、あいにくと地道に築き上げたこそある今の地位だ。舞い込んでくる仕事を一日でもサボれば、すぐに剥奪されてしまうだろう。
しかし働いた分だけ、欲しい物は手に入る。外にある巨大なプールや庭園なども、すべては子供たちのために造らせたものだ。決して自分のためではないため、自分のためにお金を使うという贅沢をしたことがなかった。
「次の休暇は、まだ決まっていないのですか?」
「なんせ、仕事がいつ終わるのかも未定なのでな。早く息子が成長して後を継いでもらいたいところだ」
次々に並べられる朝食を見ながら、椅子に深く座りながら背もたれに寄り掛かる。せめて、このぐらいの休憩ぐらいは許されるはずだ。
「お嬢様やお坊ちゃまも、しばらく顔も合わせてないと悲しんでおりましたよ」
「そうか……。最近は部屋に籠りきりだったからな。一度仕事をキリの良い所で終わらせて、せめて夕食ぐらいは一緒に食べようとしよう」
「それはきっと喜ばれると思います。では、そのようにお伝えしておきますね」
そう言って、メイドは静かに部屋を出て行った。
「同じ家にいるというのに、顔すら合わせることができないというのは、皮肉な話だな」
自分で言って苦笑しながら、運ばれてきた朝食を口にする。この料理を作っているのは雇っている料理長などではなく、妻だ。結婚する前から料理が趣味だという彼女は、ずっと料理室で家族の料理を作ってくれている。いつも食べ続けている味だが、それでも飽きずに美味しいと自信を持って言う事が出来る。
残っている仕事の量を確認しながら、またスケジュールも確認する。
「せめて、子供たちがいる日に休暇を入れたいものだな……」
すると都合の良い日が見つかった。この日だけには仕事を入れないように頼めば、少なくとも一日中空ける事が出来るだろう。これだけ働き続けているのだから、そのぐらいの我儘は聞いてくれるはずだ。
「ふむ……となると、最近は暑いから久しぶりに家族でプールというのもありだろう」
はたして、プールに入っている子供たちを見たのは何年前だろうかと考える。
「……さて、それまでにスクール水着を発注してもらうように頼んでおくか」