01 お嬢様とメイド 『休日の過ごし方』
「……暇ね」
「はい?」
独り言をつぶやいただけなのに、律儀に反応をしてしまうこのメイドはある意味メイドとして失格だと思う。
今日は礼儀作法の先生が風邪をひいてお休み。学勉で出された宿題はすでに片づけてあるし、踊りのレッスンは明日だ。
つまり何が言いたいのかというと、やる事が何もないので暇ということである。
「どうかなされましたか、お嬢様?」
「だから暇、って言ってるのよ。いつもはあれだけ忙しいのに、いざそういったものが無くなると、暇で退屈になるものなのね」
「お嬢様は、何か趣味とかはございませんか?」
「あったらこんなに退屈な時間を過ごさないわよ」
「それもそうですね。お嬢様に趣味がありましたら、きっと城中の誰もが驚くと思います」
「…………ちょっとあなた?」
「なんでしょう」
「メイドの癖に、少し生意気じゃないかしら?」
「いえ……事実を述べただけですよ。だって、時間のかかる編み物など好まないでしょう?」
「まあ、そうね。一つ作るのに一週間もかかるとかふざけてるわ」
「それに、運動などもあまりしませんよね」
「運動なんて、舞踏会で踊るためにやってるあのレッスンだけで充分だわ」
「外に出ることもめったにないですし」
「わざわざ外に出なくても、ここにいればあなたたちが買いに行ってくれるじゃない」
「……ほら」
「ほらって何よ、ほらって。どうせ私は引きこもりですよー」
メイドに言われたことに実は少しだけ自覚がありながらも、結局は何もすることがないので窓からの眺めを見つめるだけ。ここからの景色は絶景ではあるのだが、こう毎日同じ光景を見ているとさすがに飽きてしまうものだ。
「何か面白いことでもないかしらねー……」
「それでしたらお嬢様。今日はいつもとは違う服装をして過ごしてみてはいかがですか?」
「違う服装?」
「はい。いつも着てらっしゃるのはヒラヒラとしたドレスばかりなので、同じものばかりだとお嬢様は飽きてしまうでしょう? なので、私が趣味で集めてる服を着てみてはいかがでしょうか」
「服ね……。確かに、そろそろこのドレスにも飽きるわね。じゃああなたの持ってる服を着させてもらおうじゃない」
「分かりました。すぐに持ってきますね」
数時間後。
「大変お似合いですよ、お嬢様」
「……ねえ、これ何?」
メイドが持ってきた服は様々なものがあり、中でもおすすめだと着せられたのは、紺色をして肌にぴったりとくっ付く生地の服だった。
「それはスクール水着と呼ばれていて、大変人気なんですよ」
「すくーるみずぎ? つまりこれって服じゃなくて水着ってことよね?」
「そうですね。けれど中にはスクール水着の上に薄い服を着て、一日を過ごしているという人も聞きます」
「へー……それにしても、これって体のラインがはっきりと出ちゃうわね」
肌にぴったりとくっ付く生地ということは、普通の服みたいにはいかないわけで、しかも腕と足には生地がまったく無いからか寒く感じる。
「そこがいいんです」
「いや、服って体のラインとかはあまり出さないように」
「そこがいいんです」
「それに、腕と足が丸出しだから寒いんだけど」
「そこがいいんです」
「そもそもこれ水着なんだから、服と呼べないんじゃ」
「そこがいいんです」
「…………」
「ではでは、今日はそれで過ごしてみましょうか」
「過ごすわけないでしょ!」
「なんでですか!?」
「だからこれは水着なんでしょ!? そもそも服という根本的な部分が間違ってるじゃない!」
「間違ってないですよ! スクール水着は立派なコスプレです!」
「コスプレって何よ!? あなた私がこれを着ているところが見たいがためにさっきの案を出したでしょ!」
「ええ、出しました!」
「きっぱり言い切ったわね!?」
「お嬢様のその見事なまでのぺったんこを拝みたいがために、それを選びました!」
「ぺったんこ!? あ、あなたいまぺったんこって言った!? あなただってそこまでないじゃない!」
「私は隠れ巨乳なんです! 少なくともお嬢様よりはありますよ!」
「ぐ……! べ、別に胸がないからって、気にしてないんだからね!」
「あああああ今のセリフもう一度言ってください! この前取り寄せた最新の技術で作られたこの機械とやらで今のセリフを録音させてください!」
「いいから出てけこの変態メイドがぁぁぁぁっ!!」