憧れの女の子
――まず始めに言っておく。僕は世間一般の人間からみてとても気の弱い人間であると。
少し脅されれば地にひれ伏し、口論では小学生にいいようにあしらわれる僕は、自慢じゃないがどんな人間でも僕を目の前にすれば自分に自信を持ち、気が強くなってしまうのではないかと思うほどだ。
――次に忠告しておく。僕はとても純粋であると。
小学生のころ、誰かがカラスの子供がひよこだと言うのを信じ切った僕は、翌日壮絶ないじめにあい、心の奥底に深い傷を作ることになった。その後、人を疑えないこの性格をなんとかしようと努力したこともあったが、無残な結果で終わっている。
――最後に警告しておく。見た目が可愛い女の子ほど僕のような人間は騙しやすいのだと。
悪魔がそのまま悪魔の格好をしているわけがなく、悪魔は見た目悪魔の格好をしていないから悪魔たりえるのだ。「カモがネギを背負ってくる」という言葉が自分でもぴったりだと思う。
そんな取り柄がなさそうで友達もいなさそうな僕(実際いないけど)だけど、たった一人、仲がいい女の子がいた。
僕とは正反対で、強くて、優しくて、美しくて。学校のクラスどころか学年全体を通して頼りにされていた彼女。
悪を許さず正義を貫く彼女は敵も多かったが、そんなことは微塵も気にしない様子で道を行く。……僕を隣に置いて。
なんで僕をいつも隣に置いていたのか? 何度か聞いたことはあったけど、彼女はいつも曖昧な微笑みで話を濁していたっけ。とにかく、何故か僕は彼女のお気に入りに登録され、様々な出来事に付き合わされていた。
学校の中で花火を上げたり、屋上のプールに魚を流して釣りをしたり、校庭の砂という砂をかき集めて馬鹿でかいお城を作ったり……あれ、今思うと結構悪どい事に手を貸しているような……?
でも、彼女は決して弱い者に手をあげるようなことはしなかったし、意外と涙脆いところもある優しい女の子なのだ。少しスキンシップが強引でたまに大事故を引き起こして周囲を阿鼻叫喚の渦に巻き込むこともあるけれど、それでも彼女は僕の憧れだった。僕じゃ、あんなに人の前で堂々としていることなんてできないから。
そして今、彼女のいた街でもあり僕の故郷でもある『日並市』に僕はいる。
高校一年の春休み。つまりあと数日もすれば高校二年生になろうという時期に、僕はこの街に帰ってきたのだ。『彼女と再会できるかもしれない』という僅かな期待と、『もし僕のことなんか覚えていなかったらどうしよう』という幾何の不安を胸に抱いている。
そうはいったものの、残念ながら彼女と連絡する手段はなかった。携帯は小学生の時に持たせてもらえなかったし、クラスの違った彼女の住所を転校した後で入手する術を僕は持ち合わせてなんかいない。いや、本気を出せば入手できなくもない気がするが、そこまでした挙句彼女が僕を覚えていなかったら、僕はこの先一生前を向いて歩くことができなくなってしまう。
でも、なんとなく逢えるような予感がするんだ。この街の懐かしい外観、匂い、人の雰囲気は全然変わっていないから、肌が自然に感じているのだろう。
「今頃、すっごい美人になってて、モテモテなんだろうなぁ」
まだ見ぬ彼女の妄想で頭をいっぱいにしながら、僕は新しい新居で久し振りにこの街で眠りについたのだった。
【凛】「まだプロローグだから私は出てこないのね……。あぁ! 早く和君に会いたい!」
【明日菜】「僕っちは早く牧島先輩をタコ殴りのボコ殴りにして、バイクで校庭を思いっきり引っ張りまわしたいにゃ~」
【愛唯】「来週を……お楽しみに」