優
お前可愛い奴やなあ
それがあの人の口癖だった。
いわれる度に顔を真っ赤にする私を面白そうに眺めて笑いながらまた言う。
ほんまお前可愛いわ
お前見てるとなあ、なんでもしてやりたなんねん。妹みたい。てかまじ妹にそっくりや。お兄ちゃんって呼んでみ?
馬鹿にしてる、とふくれてみせながら、考えてたことは一つ。
お兄ちゃんは妹を好きになってくれたりはしないんだろうな。
色素の薄い瞳が綺麗でついついみとれていたら、不意に目が合った。
ん?どした?
優しく問いかけられて何故だか涙が出そうになった。
ああ。あたしはこの人が好きだ。
ぼんやりとして何も言わない私を少し困ったような顔でみつめると、頭を軽くなでてくれた。
しんどいことあったらなんでもいいや。可愛いお前のためやったらなんでもしたる。
『ほんまになんでもしてくれるん?』
それは言葉にしちゃいけなかった。
知っていたのに。
ずっとずっと上手くやってきていたのに。
もうあの人は私を可愛いと言ってはくれない。
頭をなでてもくれない。それでも辛い時は誰より早く気付いて、そっと支えてくれる。
そんな優しさが私を辛くさせることも、きっと知っている。
知りながらも冷たくすることなんて出来ない人だ。
ずるいのか優しいのかもわからないけれど。
ただ一つわかること。
あたしはあの人が好きだということ。
優しくされる度に辛くて辛くて、もっとあの人の優しさが欲しくなる。
抜けられないアリ地獄にはまりながらも、あたしはまたあの人の声が聞きたくなる。