首都へ向けて
たいへん長い間お待たせして、本当に申し訳ありませんでした。
「急な話だが、今すぐ首都に行ってくれないか、伍長。」
非番の日の朝、いつもの二段ベッドの下段で目が覚めると、巨漢の曹長がベッドの脇に立っていて、(本気で心臓が止まるかと思った・・・。)連れられるままルシル隊長の部屋に行くと、開口一番にそう言われた。
「それは・・・、もしかして命令ですか?」
ルシル隊長は、休日とあってかいつも以上にラフな服装で机の上に足を投げ出して、葉巻をふかしていた。
隊長が葉巻を吸うことにも驚いたが、首都に行け、と言われたのにはそれ以上に驚いていた。
「そうだ、これは命令だ。知っているとは思うが、首都は現在、戒厳令下にある。今から首都に外部からアクセスするには、少なくとも下士官以上の階級の者でなければならない。」
「では、私はどうすれば?」
私はまだ伍長だ。下士官ですらない一兵卒だ。
「そこで、だ。あれを着てもらおう。私からのプレゼントだよ。まあ、後で返してもらうつもりだが。」
隊長はタンスを葉巻で指し示した。タンスの扉は開いていて、下士官の制服が掛かっている。
「これは、もしかして・・・。」
「うむ。何を隠そう、士官学校時代の私の制服だ。当時はまだ今よりも背が低かったからな・・・。今の伍長にはぴったりだと思う。なにか異論は?」
「・・・特にありません。」
私は姿勢を正して、隊長に敬礼した。
しばらくしたのち、私はルシル隊長が昔、着ていたという制服に着替えて、基地のロータリーで履きなれない磨き上げられた革靴の紐を直していると、意外な人物が私に声をかけてきた。
「やあ、ノミオル・ビルセンタ"少尉`。」
「・・・ローニル伍長。」
見上げるとそこには、制服を着ていて制帽を被ったローニル伍長が立っていた。しかし、彼の階級章を見て、私は驚きを隠せなかった。
「・・・中尉の階級章?何かの間違いじゃないでしょうね?」
問いつめると、彼は苦笑いしながら言った。
「詳しい話は道中でするが、実は君をスパイするように隊長の父上、アルゴ・キンバレ陸軍元帥から直接頼まれてね・・・。まあ、ルシル隊長にちょくちょく報告もしてたんだが、昨日、隊長からわたしの部隊と私の父親、どちらに忠義を尽くすんだ?と問いつめられてね。」
「・・・それで?なんて答えたの、ローニル・フラン”中尉”。」
「俺は美人に目が無くてね・・・。特に、隊長に頼まれたら、首を縦に振るしかなかったよ。」
「はあ・・・呆れた。」
「本当は、もう少し込み入った事情があるんだが、機密事項に少し触れるから、残念だがキミには話せないんだ、悪いね、”伍長”」
特に悪びれる様子もなく、ローニルが言う。
「・・・まあ、いいわ。それで、どっちが運転するの?」
「俺が運転するから、キミは助手席で寝ていても構わないよ。キミの寝顔も見てみたいしね。」
本当にぶれない男だ。私たちは軍用車両に乗り込み、ローニルがエンジンをかけた。
これからも、僕の小説をよろしくお願いします。