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第八話:後手




「…悪い。」




一人で全て食べてしまったことに罪悪感が湧き、小さく謝ると莉乃は不思議そうな顔をする。




一頻り説明すると莉乃は『正人って変なところで律義よね』と声を上げて大笑いする。




「オジヤは正人の為に作ったんだから正人が全部食べても問題ないでしょ?……それとごめんなさい。」




「ごめんなさいって何が?」




莉乃が言うことの意味が分からずに聞き返すと目を伏せて答える。




「オジヤの色、可笑しかったでしょ。………あれ、実は食紅で無理矢理色を付けていた。」




莉乃の言うことが理解できずに首をかしげると、ぽつりぽつりとその理由を言い出した。




要約すると料理に自信がなかったそうだ。




その上オジヤを作るのは初めてだったらしい。




何度も何度も味見をしたが自身はつかず、考えた末にたどり着いたのが不気味にしてしまおう、という結論。




色がグロテスクなら味が普通でもギャップでおいしく思うだろうと考えてのことだったらしい。




莉乃の考えにいじらしさを感じるとともに嫌な感覚が沸々と湧き上がってくるのを俺は感じていた。




もしかすると莉乃は俺の事が好きなのかもしれない。




そんな考えが脳裏を(よぎ)り、自分の気持ちが底冷えしていく。




さっきまで楽しくじゃれ合っていた関係が愛おしい。




今の俺にこの時間を楽しむだけの余裕はない。




俺の感違いであればそれでいい。




でも、もし莉乃が俺に恋愛感情を抱いているなら俺たちの関係に終止符を打つことになるだろう。




それを意識し出してから俺の感覚は莉乃の行動から真意を読み取ることに専念する。




「なぁ莉乃。お前って彼氏作らないのか。」




俺の問いがよっぽど意外だったみたいだ。




莉乃の表情は固まり、まるで異国語で話しかけられたようにキョトンとマヌケな顔で俺の顔を覗きこんでくる。




「意外~。正人ってそういうのに興味ないと思ってたよ。なんだ、なんだお姉さんが気になるのかな。」




ニヤニヤとした表情で聞き返す莉乃は普段通りに見えた。




でも声が少し上ずっている気がする。




「いや、莉乃ってそれなりに見れた顔してるのに彼氏とかそういう話作らないから気になってさ。」




笑みが引き攣ってはいないだろうか。




それに莉乃が何時も通り気付いてくれればいい。




「えっと、その、なんて、言うかな、今はそういうこと考える時期じゃないし、そういうのは考えられない、かな。」




僅かに(あか)く染まった頬が全てを決定付けた。




もう、莉乃との関係も閉じなければならない、と。




空気が同じだった。




以前、女の子に告白された。




今でも照れ上がったその子の頬を思い出せる。




莉乃にとって今は至福の時なのだろ。




好きな人が弱り、普段は見せぬ顔が見れる。




俺の性格を知る莉乃が他の女を連れ込むようなことをしないのは明白だろうし、より仲良くなるチャンスなのだろう。




なら、早く終わらせるべきだ。




叶わない夢なら見ないほうがいい。




届かない想いなら届けないほうがいい。




望めない未来なら求めないほうがいい。




堕ちてしまう道ならその足を地に這わせればいい。




莉乃を疵付けることになるだろうが、でもそれでいい。




早かろうが遅かろうが傷付けなければいけないなら、早いほうがいいに決まっている。




疵は癒える。




欠けたものは癒えない。




だから突き放す。




それが最良の方法だと知った。




でも遅かった。




俺よりも先に行動を起こしたのは莉乃のほうだった。





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