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第七話:真紫



本日四度目のベッドイン。




でも情事(じょうじ)溢れる淫靡(いんび)なものではなく、笑顔の莉乃に無理矢理入れられたからどちらかと言えば監禁か、良く言って軟禁と言ったところだ。




そして俺を監禁した莉乃は台所にいる。




テーブルの上に置かれた夕食を見た莉乃は笑顔を三回転半させて鬼のような形相で夕飯を作りだすと言い出したので大人しくそれに従った。




今の俺に莉乃と口ゲンカを交わし、莉乃が納得するような料理を作りだすだけの気力はない。




最初のほうは慌ただしく音が行ったり来たりを繰り返していたのに今となってはそれがない。




香ばしい匂いが漂ってきたところを見るとちゃんと作れたようだ。




などと考えていると足音が近付いてきた。




「正人~。優しい莉乃ちゃんがおいしい、おいしいオジヤを作ってきてあげたわよ。心して食べなさい。」




土鍋をお盆に載せた莉乃は上機嫌なまま部屋に入ってきた。




土鍋からは湯気と味噌の香りが微かにする。




俺はてっきりキッチンを爆発させたり、食べると嘔吐・下痢・発熱が併発するような危険物を作って来ると思っていたばかりに拍子抜けしてしまった。




莉乃が嬉しそうに土鍋の蓋を開けると一瞬視界がすべて湯気のせいで何も見えなくなってしまった。




そして次の瞬間には我が目を何度も何度も繰り返し擦った。




「莉乃、テレビ横の戸棚から眼下の診察券出してくれ。目が可笑しくなったみたいだから行ってくる。」




目の心配をする俺を莉乃は楽しそうに笑いながら『正人の眼は大丈夫だよ。正常だよ。』と言う。




そんなはずがない。




そんなはずがあっていいはずがない。




というか信じることなど出来るはずもない。




「なぁ、莉乃。俺の眼がおかしくないならオジヤが()(むらさき)色に見えるんだけど。」




「うん、紫色だね。」




「『うん、紫色だね』じゃねーよ!オジヤが紫っておかしいだろっ。紫キャベツでも入れたのか!?」




俺が何に怒っているのか分かっていない莉乃は『オジヤに紫キャベツなんて入れるわけないじゃない、普通。変な正人~』となにがおかしいのかケラケラと笑っている。




それどころかこのバカはムラサキの危険物を俺の口の中に入れようとする。




こんな得体の知れないものを食ったら全身から血を出しながら死んでしまうかもしれない、そう頭に浮かんだ俺は頑なに拒否する。




だが瞳の据わっている莉乃は俺の胸元辺りに圧し掛かり、湯気立つ危険物をレンゲに少し入れ、息を吹きかける。




そして莉乃は無情にも嫌がる俺の口に無理矢理突っ込んだ。




そして全てが口の中に入ったことを確認すると莉乃は両手で俺の頭と顎を持ってゆっくりと咀嚼(そしゃく)させる。




これは一体何時代の、何処のなんて言う拷問(ごうもん)だ?




という前に俺の脳はブラックアウトしなかった。




遅行性の毒かと思ったがそうではないみたいだ。




正直に旨いと思う。




味噌の風味を生かしているし、出汁が利いていて後味もあっさりしている。




なんで真紫色をしているのか分からない。




だが確かにおいしい。




奇妙な色は置いておき、食慾をそそるオジヤに舌鼓(したつづみ)し、結局は一人で全て食べ切ってしまった。





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