第三話:無意識
小突かれた。
授業に遅れたせいで教科書を朗読させられている莉乃を笑っていると後ろから小突かれて何かを押し付けられた。
感触でそれが紙だと分かった俺は後ろに手をやる。
教師の視線は莉乃の元だ。
四つ折りにさせた紙には『1-21+35+4』と鋭利な文字が書き綴られていた。
これを見た瞬間相手が誰だか理解し、小さな溜め息が漏れた。
贈り主は真後ろに座る小野木だ。
以前今回みたいに俺と文通を介していた小野木は紙切れを教師に取り上げられてしまったのだ。
そして好きな人を読み上げられることとなった。
以来、小野木は『1』から『5』までの数字を用いた暗号を編み出したそうだ。
はっきり言って時間と知能の無駄遣いだ、とは思ったもののそれなりに親しいので使っている。
学習能力のない奴だ。
『おい、精神不衛生男。お前、莉乃ちゃんと何処で何してた。白状しろ。』
まだ俺と莉乃の認識を間違ってるやつがいた。
小野木の見当ハズレな問いに溜め息を吐いた。
目立つ容姿の莉乃のせいで俺と莉乃の関係を怪しむ生徒は少なくなかった。
誤解というのはさせる側からすると不愉快なものだ。
だから俺は問われる度に訂正した。
それは莉乃も同じだったようで、俺が問われてから二月もしないうちに訂正された、のに。
クラスメイト達は俺と莉乃の関係を正確に認識しているのに、このバカはいまだ俺と莉乃の関係を勘ぐっている。
『莉乃と屋上で飯喰ってた。あと、精神不衛生男はやめろ。』
書いていて頭が重くなってきた。
『嘘吐けっ。どうせお前のことだから莉乃ちゃんと乳繰り合っていたんだろ。死ね。』
小野木の一方的な罵倒を無視して瞼を閉じる。
耳からは古語が次々と右から左へと流れていく。
そのせいか何時もより頭が重い気がする。
重くなった瞼がゆっくりと堕ちていく。
何処からか声が聞こえた気がした。