第十一話:プロローグ(最終話)
「俺が中学二年生で実乃里姉さんが高校一年生の時だったんだ。親父が酒を美味そうに飲んでるから俺も飲んでみたくなったんだ。酒の割り方も知らなかった俺が次に目を覚ました時には姉さんが俺の上で腰を振っていて、涙を流しながら俺の名前を連呼してたんだ。それが多分姉さんを歪めてしまったんだよ。」
俯きながら話す俺とは違い、莉乃はドブネズミのような空を見上げながら口を開いた。
「ごめんね、正人。本当は私、あの時に邪魔するべきじゃなかったんだよね。なんで私、あんなこと…」
「謝るなよ。本当の事言うとあの時お前が止めてくれて良かったと思ってる。実乃里と決別する為に県外の高校に来たのに……。これじゃあ、俺が受験頑張った意味ねぇじゃんかよ。だから助かったよ、莉乃。」
莉乃が何をどう思って謝っているのかは分からなかったけれど、本当に莉乃が居てくれて良かったと思う。
もし居なかったら俺たちはまた足を洗う機会を逃して最後には周りを悲しませる結果になるんだから。
じゃないと俺が一人暮らしをした意味がなくなる。
「違うんだよ、本当は。エッチする前に止められたことも私たちらしいかなって思ったし、正人が他の誰とエッチしても止めるつもりはなったの。それが例え血のつながりをもったお姉ちゃんだったとしても。」
ならどうして俺と実乃里を止めたんだ、と聞く前に莉乃は答えてくれた。
「でも、あの人キスしようとしてたんだもん。エッチは別にいいよ、魔が差すことだってあるから。男の子にエッチしたいって気持ちがあるように女の子にだってそんな気持ちはあるから分かるもん。でもあの人はキスしようとしてた。だから止めたの。だってキスは好きな人通しだけしかしちゃいけないの。男の子同士でも、女の子同士でも、好き会っているならキスはいいの。キスはそうじゃないとダメなの。」
温かい雨が降り始めた。
でも俺も莉乃も気にすることなく想いを晒し合い続ける。
「そんなの哀しいじゃない。告白して振られるならいいよ。ボロ雑巾みたいになって捨てられるならいいよ。でもキスしてるところを見せられて振られるなんて嫌なの。だから邪魔しちゃったの。だから『ごめんね』って謝らないといけないの。だから良いよ、私の事振って。正人の口から振られるなら本望なの。正人がお姉さんと付き合っても誰にも言ったりしないよ。おめでとうって言えるよ。だから正人が振って。私は正人のことが好きだから。」
『分かった。』
俺はそう言って息を整える。
莉乃は息をすることを忘れてしまっている。バカみたいだ。
「俺さぁ、物凄くシスコンなんだ。エッチなことが大好きだ。澄ました顔してるけど、いっつも頭の中ではエロいことばっかり考えてる。未だに未練たらったらで実乃里が好きだし、普通に戻れる自信なんてこれっぽっちもない。もしかしたら死ぬまで実乃里の事好きで居続けるかもしれない。でもさ――」
一瞬言葉を続けることを躊躇ってしまった。
これが莉乃の為にならないことは百も承知だ。
むしろ莉乃を傷付けるだけだと分かっている。
「――でもさ、こんな俺でいいなら付き合ってください。莉乃の事心の底から愛してるって言えるように努力します。命を尽くします。殺されることになっても貫き通します。だから彼女になってください。」
我ながらなんて自分勝手な告白だろう。
もし俺が莉乃なら股間を蹴りあげて早々に逃げ去るだろう。
でも莉乃なら付き合ってくれるような気がした。
付き合ってくれるまで告白するつもりでもある。
「シスコンなのも知ってる。エッチで、ドSで、変態で、どうしようもない人類の最底辺って知ってる。でも仕方ないから付き合ってあげるよ。それで最期はボロ雑巾みたいに捨ててやるんだ。だから気にしなくてもいいよ。」
つい、莉乃のほうを見上げる。
あっ、今日は水色だ。
「エッチッ。」
バレたらしい。
「彼氏だからな。」
言い訳にもならないことだと分かっている。
でも照れくさいから仕方ない。
「よろしく、彼女」
「よろしく、彼氏」
少しだけ愛せる自信が湧いて来た。
たまには素直になるのもいいかもしれない、なんて思ったり思わなかったり。
まぁ、結局二人して昼からの授業には遅れてしまった。
でもまぁ、左手が暖かかったから、別にいいや。
屋上から見上げた空は雨、時々晴れ、所々曇り、追い風なし。
一応本編最終話です。
次のページは本編を通しての後書きとなっています
ちょろっと次の小説の予告もしたりしますので、もし良ければご覧ください
『雨、時々晴れ、所々曇り、追い風なし』ご愛読ありがとうございました
H.22.12.11.Sat.0:00
藍雨 和音