#1 「結衣と駄菓子屋での隔絶」「橙色に染まる島」
そろそろ秋が来たようだ。
夏の始まり
静かに消えろ
【駄菓子屋】
駄菓子屋の縁側?に座る主人公と菊池結衣。
二人は、10円だまで
「なあ、結衣。」
「…何?」
「ここって、何か娯楽ができる場所ってないのか?」
「娯楽ができる場所?」
「映画館とか遊園地とか。」
「釣りはできるよ?」
「はぁぁ。この島の子供は一体、何をして夏を過ごしているんだか。」
「映画館は船に乗って本島に行けばある…らしい。」
「行ったことはないのか?」
「小さい頃に一度。お父さんに連れて行ってもらった。」
「なら、今年も連れて行ってもらおうぜ。子供は楽しまないと子供じゃないからさ。」
「でも…」
「俺も一緒に行くから、みんなも連れて行けば怖くないって。」
「…」
「お父さんに言うのが怖いなら、俺も手伝うからさ。」
「お父さん…もういないから。」
「あ。」
俯いてしまった結衣の肩に、俺は手を置けなかった。
彼女はどこか遠くにいたから。
あたりには何もない。
雑草でぼうぼうな放置された空き地と、海と奥には山。
駄菓子屋はポツリと一軒だけで建っていた。
時間に取り残されたそこで、俺と結衣はいる。
山に隠れる太陽の橙色の光がこの島を一色に染めている。
結衣の顔は陰でよくわからない。
結衣は何も言わない。
俺は咄嗟に立ち上がった。結衣を見下ろして言う。
「今日は、楽しかったよ。また駄菓子屋行こうな。一緒に。」
「…」
「俺はここにいるから、さ。」
顔を上げる結衣の目には確かに涙が流れていた。
「…うん。あなたは私の前から消えないでね。」
「当たり前だ。その証拠に、明日はまた別のところに連れて行ってくれよ。結衣ともっと遊びたいんだ。」
「うん。」
「子供は遊ばないと子供じゃないから、俺と遊ぼう。明日も明後日も。」
「明日は、お父さんの命日だから。…ごめん。」
拳に力が入る。
「…あ、あぁ。そうか、わかった…じゃあまた明後日だな。」
「うん。」
駄菓子屋でそのまま別れる。結衣が振る手はひどく弱々しく感じた。遠くから見た結衣は、気をつけていないと、気づかないうちに消えてしまいそうだった。
「…すまん」
俺の足は帰路に向かった。
この島の夏には毎日決まって とある現象が起きる。
午後6時30分。
島全てが橙色に染まる。
人も、家も、道も、店も、空も、山も、海も、神も、
皆、等しく染まる。
同じように、俺もまた、染まっているだろうか。
染まれているだろうか。
一人の帰り道で、俺は自分の手のひらを見て思う。
多分、染まっていない、と。




