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帰り道

作者: ぱるき
掲載日:2026/01/18

 それは、学校の帰り道でのできごと。


 雪が降り始めた日だった。

 駅前にあるポストを行ったり来たりを繰り返すこと、小一時間。

 ポストに何度『それ』を入れかけ、引っ込めたことか。


 もうすぐ受験が始まるというのに、私は何をしているんだろう。

 読んでくれるだろうか。

 もし、返事がこなかったら。

 返事が、NOだったら。

 そんなことを繰り返し、繰り返し考えながら、ポストに近づいたり、遠ざかったり。


 やがて何度目になるか分からない、ポストへ『それ』を入れかけたとき。

「高辻」

 背後からのその声に、私はポストの中に『それ』を落としてしまった。びっくりして肩を浮かせながら。

 聞き慣れた声に振り返ると、やっぱり彼だった。

 そして彼も、『ああ、やっぱり高辻だ』といった顔で私を眺めている。

「手紙でも出したの?」

「……」

 あまりにもびっくりしたものだから、小さく素早く頷くのが精一杯だった。

 でもって、そのまま俯いてしまう。 


 とても見せられない、今の自分の顔。マフラーをぐるぐる巻いて半分は隠れているとはいえ。

 そして、見ることが出来ない彼の顔。


 手紙を、出してしまった。

 しかも、出した相手が今目の前にいる。


 心臓がバクバクする。

 何てことだ。


 きっと、私は顔が赤くなっている。

 そんな、漫画の様に真っ赤っ赤というわけではないだろうけど。

 頭の上からは既に湯気が上っている。そんな感じだ。


 間もなく受験本番。 

 授業は終わり、年が明けると卒業式近くまでクラスメイトとは会えなくなる。


 ――遅まきながら高辻葉月、恋をしました――

 

 誰に言うわけでもなく、心の中で呟いていた自分。

 あれは5月の連休が終わって間もない頃。


 このまま何もせずに終わるよりも、せめて自分の想いだけでも伝えたら。

 何度そう思い、書き始めては止めてしまったペン。

 あれよあれよとカレンダーはめくり変わり、気付けば12月。

 やっと決心し、思い立ったのが昨日の今頃。

 その晩遅くまで時間をかけたのに、書いた手紙は1枚。

 クドクド書くよりも、シンプルにいこう。

 堂々巡りをして、そこに落ち着いた。


 高校3年生になって、初めて自覚した恋。

 親友にさえ打ち明けていない。


 遠巻きに見る彼はいつも明るくフザけていて、自然と周りから皆が彼の所に集まっていって。

 最初は全く気にもならなかったのに。

 それは、たったひとつのきっかけから。

 多分誰も知らない、見ていない、私だけの秘密。


 その彼が、今目の前にいる。


「あのっ、じゃあ」

 とりあえずこの場から逃げようと、俯いたまま体の向きを変えた瞬間。

 私の右手を、彼が握った。

 これまたびっくりして、私は反射的に彼の顔を見た。

「一緒に帰らない? お前ン家、確か同じ方向だったよな?」

 そう言う彼の顔は、いつになく真面目で落ち着いていない。

 いつになく、というけれど。

 実はまともに会話をしたのはこれが初めてで。



 

 そして、帰り道。


 私はまだ届いていない手紙の返事を貰った。

 いえ、貰ったんじゃなくて。

 


「高辻が好きだ」



 突然だった。

 何だそれは。

 まさか、先手をとられるとは。

 しかもこんな時期に、よく告白したものだ。

 ところがすぐに気付く。

 自分も同じことをしようとしていたではないか。既に現在進行中だけど。


 恥ずかしさが可笑しさに変わり、

 緊張が心地良さに変わり、私は笑った。


「何で笑うんだよ」

 彼が少しだけ不機嫌そうに口を尖らせる。

 私は慌てて姿勢を正した。

「ごめん。違うの。あまりにもビックリしたから」

「びっくり?」

 彼はますますワケが分からない様で、眉をひそめた。


 そりゃあそうだ。

 真剣に告白したのに笑われたのだから。


 それでも私の中で、少しだけ意地悪が芽生える。

「私の返事、今訊きたい?」

「はあ?」

 口を開けたままの彼の頭の中では、きっと「?」が星の様にたくさん浮かんでいるに違いない。


「明日になれば分かるよ」

 そう言って私は構わず歩き出す。

「明日?」

 彼も慌てて歩き出す。



 嬉しさ。

 喜び。

 恥ずかしさ。

 清々しさ。

 温かさ。



 飛び交う、感情。

 

 それは素敵な素敵な、学校の帰り道だった。

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