第9話 俺は三秒だけ考え、街が軽く死にかけたωω
異世界九日目。
俺は順調だった。
何も考えず、
何も決めず、
何も疑問に思わず、
ただ生きていた。
世界は平和。
鐘も鳴らない。
人も倒れない。
完璧だ。
――その時までは。
「勇者様!」
リーナが走ってきた。
「緊急案件だ!」
「……(考えるな、考えるな)」
「街の倉庫で異音がしている!」
「……(聞くな、聞くな)」
「原因不明!」
「……(原因を探るな)」
俺は立ち止まった。
ほんの三秒。
考えた。
「……それ、放置したらまずくない?」
――終わった。
リーナの顔が引きつる。
「今、考えたな?」
「少し!」
「何秒だ!」
「三秒!」
「多い!!」
鐘。
「勇者が“少し”考えたぞ!!」
「警戒レベル上げろ!!」
「三秒だって!!」
街がざわつく。
俺は焦った。
「待って! まだ何も起きてない!」
その瞬間。
――ドン。
倉庫の方角で、
小さめの爆発。
「……小だな」
「小じゃねえ!!」
被害は――
倉庫一棟、
中身全焼、
死者ゼロ。
「……小だ」
「評価基準が狂ってる!!」
原因は単純だった。
老朽化した魔道具の暴発。
俺が考えたせいで起きたわけではない。
……はずだった。
だが。
白髪の少女――厄災担当ヒロインが現れる。
真顔。
「記録更新」
「なにを」
「“勇者が考えた直後に事故が起きた例”」
「関連性ないだろ!」
「人は、そうは思わない」
街の声。
「やはり……」
「勇者が考えたから……」
「三秒も……」
「三秒が罪みたいになってる!」
俺は頭を抱えた。
「違う!
今回のは俺じゃない!」
沈黙。
全員が俺を見る。
リーナが静かに言う。
「……言い訳に聞こえる」
「本当に違うんだって!」
ヒロインが一歩近づく。
「でも」
彼女は淡々と言った。
「被害、これだけで済んだ」
「……?」
「あなたが考えたのが三秒だったから」
「時間で換算するな!!」
彼女は紙に書く。
『思考三秒=倉庫一棟』
「やめろォ!!」
俺は叫んだ。
「じゃあ一分考えたら何なんだよ!?」
全員が凍った。
ヒロインが答える。
「……街」
「最悪の単位変換やめろ!!」
夜。
俺は部屋に戻った。
ベッドに倒れる。
「……もう考えない」
強く誓った。
だが。
その瞬間、
考えてしまった。
「でもさ……
なんで俺だけこんな目に……」
――一秒。
窓の外で、
看板が落ちた。
「やめろォ!!」
被害:
通行止め一件。
死者ゼロ。
「……小だな」
自分で言って、
俺は泣きそうになった。
異世界九日目。
俺は学んだ。
この世界では、
考えること自体が
“行動”である。
そして俺は、
世界で一番、
思考コストが高い人間だった。
明日からは、
本気で何も考えない。
……たぶん。




