第6話 記録係は今日も真顔で頭がおかしいωω
――勇者は危険。
それは事実だ。
だが。
どのくらい危険かは、誰も正確に測れていない。
白髪の少女――
王都地下封印管理局・厄災担当官は、机に紙を並べていた。
「今日の議題。
勇者都市伝説の真偽確認」
真顔だった。
部屋の壁には書類。
張り紙。
なぜか絵付き。
『勇者が咳をすると橋が落ちる(未確認)』
『勇者が座ると地面がへこむ(確認済・軽度)』
『勇者が考え事をすると税が上がる(別件)』
「……混ざってる」
彼女は赤ペンで線を引いた。
隣には女騎士リーナ。
「本当にやるのか?」
「必要」
「勇者本人を使って?」
「当然」
廊下の向こう。
勇者――
椅子に座って、何もしていない。
本当に何もしていない。
呼吸しているだけ。
「第一検証」
少女は淡々と告げる。
「勇者が咳をしたら橋は落ちるか」
「そんな検証あるか!」
勇者が叫ぶ。
「咳しなきゃいいだろ!」
「それは検証にならない」
「人道的にアウトだろ!!」
記録開始。
時間、午前九時。
勇者、緊張。
「……っ」
小さく、咳。
遠くで――
橋が鳴った。
「!?」
全員が凍る。
結果。
橋は落ちなかった。
ただし。
「……老朽化が一段進んだ」
「進むな!!」
記録。
『咳=即落下ではないが、構造劣化を誘発』
「次」
「まだやるの!?」
「第二検証」
少女は紙をめくる。
「勇者が座ると地面はへこむか」
「それはもう――」
勇者が座る。
――ミシ。
「やめろ!」
結果。
地面、三センチ沈下。
「……へこんだな」
「日常生活させろ!!」
記録。
『座位=局所的沈下』
「第三検証」
少女は一瞬、間を置いた。
「勇者が何も考えないと、何が起きるか」
「それ検証できる?」
「する」
勇者は目を閉じた。
「……無」
完全な無。
考えていない。
結果。
――何も起きない。
沈黙。
「……」
「……」
少女は、初めて眉をひそめた。
「……おかしい」
「だろ!? 俺無害だろ!?」
「違う」
彼女は勇者を見る。
「あなたは“選択”している時だけ危険」
「選択?」
「何かしようとする瞬間」
リーナが腕を組む。
「だから“何もしない”が一番安全だったのか」
「でも」
少女は続ける。
「人は、あなたが何かすると思う」
「……あ」
勇者が呟く。
少女は頷いた。
「都市伝説は、あなたではなく――」
紙に書く。
「周囲の恐怖が引き起こしている」
新しい記録。
『勇者=トリガー
恐怖=起爆剤
被害=副産物』
その瞬間。
勇者がくしゃみをした。
「へっくし!」
全員が跳ねた。
――何も起きない。
「……?」
少女は目を細めた。
「今のは?」
「……考えてなかった」
「つまり」
彼女は結論を書く。
「勇者は、考えていない時は安全」
「バカにしてる?」
「してない。事実」
その日。
新しい対策が決まった。
勇者には考えさせるな。
目的:世界平和。
勇者は机に突っ伏した。
「俺、思考停止で生きろってこと?」
「そう」
「それ、勇者の扱いじゃないよな?」
「置物」
「また!?」
少女は記録を閉じた。
都市伝説検証――完了。
結論。
勇者は危険。
だが一番危険なのは、
勇者について真剣に考え始めた時である。
彼女は真顔でそう記した。
今日も世界は平和だった。
勇者が、
何も考えていなかったから。




