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犯人は主人公  作者: 超俺


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21/22

第21話 勇者、準備したら準備が壊れるωω

 異世界二十一日目。


 俺は広場に立っていた。

 今日も魔王城とは逆方向に。


 立っていると、街が落ち着く。

 落ち着くというか、勝手に静かになる。


 だが今日は違った。


 朝から、広場がうるさい。


「よーし!」


 坊主の声。


 石畳を蹴る乾いた音と一緒に、あいつが現れた。

 昨日から妙に目がギラついている。


「今日からだ!」


「何がだ」


「準備だよ準備!」


「何の」


「勇者が動いても死なねえ準備!」


 言い方が悪い。


「死ぬ前提かよ!」


「死なせねえって言ってんだよ!」


 理屈は同じだ。


 リーナが剣の鞘で石畳を叩いた。


「坊主」


「何だよ」


「喚くな」


「喚いてねえ!」


「喚いている」


 リーナは俺を見る。


「勇者」


「何だ」


「今日は動くな」


「いつも動いてない」


「そういう意味じゃない」


 リーナは坊主を見る。


「こいつが暴れる日だ」


「暴れてねえ!」


「暴れる顔だ」


「顔で決めるな!」


 決めるなと言っても、もう決まっている。


「まずは基本!」


 坊主が指を立てた。


「道にある危ないもんを片付ける!」


「危ないもん?」


 坊主は即答する。


「桶!」


「樽!」


「石!」


「看板!」


「犬!」


「人!」


「最後が一番危ない!」


 坊主は走り出した。


 走るな。


 坊主は桶を見つけると、持ち上げた。


「これが元凶!」


「元凶に触るな!」


 リーナが怒鳴る。


「安全な場所に移す!」


 坊主は桶を運ぶ。


 運ぶ途中で、石畳の段差につまずく。


 桶が回転する。


 水が飛ぶ。


 見事に――


 リーナにかかった。


 静寂。


 リーナの髪から、水が落ちる。


「……」


 坊主が固まる。


 俺は立っていた。


 考えていない。


 敵もいない。


 なのに、今日も何かが終わった。


「……坊主」


 リーナの声が低い。


「はい」


「準備はいい」


「はい」


「だが」


 リーナは鞘を構えた。


「まず、お前を片付けたい」


「やめろ!」


「次!」


 坊主は即座に話題を変えた。


「滑る石畳!」


「砂を撒く!」


 どこから持ってきたのか、袋がある。


「お前、準備良すぎだろ」


「準備の準備だ!」


「意味が分からん!」


 坊主が袋を振る。


 砂が舞う。


 舞いすぎる。


 広場が霧みたいになる。


「咳が」


「目が」


「口の中が砂!」


 住民が騒ぐ。


「坊主!」


 リーナが怒鳴る。


「撒きすぎだ!」


「多い方が安全だろ!」


「肺が死ぬ!」


「肺は勇者じゃねえんだぞ!」


「勇者も死ぬ!」


「じゃあ撒くな!」


 結論が出るまでに被害が増える。


 坊主は看板を指差した。


「次!これ!」


 古い看板が、釘一本でぶら下がっている。


「落ちそうだろ!」


「落ちる前に外す!」


「いい」


 リーナが頷く。


 坊主が看板を引っ張る。


 釘が抜ける。


 看板が落ちる。


 落ちるのは予想通り。


 だが落ちた先が――


 坊主の頭だった。


 ゴン。


「……」


 坊主が膝から崩れた。


「ほら見ろ!」


 坊主が叫ぶ。


「準備してなかったら今の、もっと危なかった!」


「準備してても危ない!」


「でも死んでない!」


「死ぬな!」


 リーナは坊主の頭を見た。


「……坊主」


「何だよ」


「お前の頭は」


「丈夫だろ」


「空っぽだからな」


「殺すぞ!」


 生きてる。


 住民が遠巻きに見ている。


「勇者様が動く前に……」

「坊主が動いている……」

「坊主が死なない……」

「奇跡……?」


 坊主が聞きつけて叫ぶ。


「奇跡じゃねえ!」


「俺の努力だ!」


 リーナが即座に言う。


「努力の方向が間違っている」


「間違ってねえ!」


 坊主は胸を張る。


「今日の目標はこれだ!」


 指を立てる。


「危ないものを全部片付けて、事故の連鎖を断つ!」


 俺は言った。


「危ないものって、俺じゃないのか」


 広場が静かになった。


 坊主が顔をしかめる。


「……それ言うなよ」


 リーナも一拍遅れて言った。


「……言うな」


 珍しく、二人の意見が一致した。


「とにかく!」


 坊主は立て直す。


「今日は“片付け”だ!」


 片付けは進む。


 進むが――


 片付ければ片付けるほど、

 街の中の“見えない導線”が変わり、

 人の動きが変になり、

 結果的に小さな事故が増えていった。


 誰かが避けた先で別の誰かが転ぶ。

 桶が無くなった場所に人が集まりすぎる。

 砂で滑らなくなった場所に走る奴が増える。


 俺は立っているだけなのに、

 世界は勝手に調整して、

 別の壊れ方を探しているみたいだった。


「……なあ」


 坊主が汗だくで言う。


「準備ってさ」


「何だ」


「やればやるほど

 別のとこが壊れね?」


「そうだな」


「なんなんだよこの世界!」


 リーナが低い声で言った。


「詰んでいる」


「詰んでるのは分かってる!」


 坊主は地面を蹴る。


「でも!」


 顔を上げる。


「準備しないよりマシだろ!」


 リーナは少しだけ黙った。


 そして、珍しく頷く。


「……そうだ」


「え、今肯定した?」


「調子に乗るな」


「乗る!」


 リーナが鞘で坊主の頭を叩いた。


「痛っ!」


「乗るな!」


 理不尽だが、今日はそれでいい。


 異世界二十一日目。


 準備は進んだ。


 進んだが、

 準備そのものが新しい事故を呼んだ。


 敵は出てこない。


 それでも、壊れる。


 坊主は学んだ。


 この世界は、

 壊れ方を変えるだけで、壊れること自体はやめない。


 それが分かった時点で、

 次の馬鹿な結論が生まれる。


 坊主の目が、また光った。


 嫌な予感しかしない。

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