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犯人は主人公  作者: 超俺


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20/21

第20話 勇者を一歩進ませたいωω

 異世界二十日目。


 俺は広場に立っていた。

 今日も魔王城とは逆方向に。


 ……で、誰もいないと思ったら。


 石畳を「カツ、カツ、カツ」と小気味よく叩く音が近づいてきた。

 小石を蹴りながら、坊主のクソガキが現れる。


「よし」


 開口一番それだ。


「何がだ」


「安全距離」


 坊主は俺の前でピタッと止まり、わざとらしく三歩下がった。

 しかも一歩ずつ数えながら。


「いーち。にーい。さーん。……ここだ」


「根拠は?」


「勘」


 リーナの鞘が石畳を叩く音がした。


「坊主」


「何だよ」


「もっと離れろ」


「三歩でいいって昨日の空気が言ってた!」


「空気に決めさせるな」


「で?」


 リーナが言う。


「何を考える」


 坊主は胸を張った。


「勇者を動かさないまま、魔王を倒す方法」


「詰んでると言っただろ」


「詰んでるのは分かってる」


「分かってて考えるのか」


「そうだ」


 坊主は口を尖らせた。


「詰んでるって言ったら、普通はさ」


「何だ」


「投げるだろ」


「投げろ」


「いやだ!」


 反抗期が元気だ。


「まず」


 坊主は指を立てた。


「勇者が魔王を倒す必要がある」


「そうだ」


「でも勇者が動くと街が壊れる」


「そうだ」


「じゃあ」


 坊主はニヤッとする。


「街を壊れてもいい場所に移す」


「意味が分からん」


「移すんだよ!」


 坊主は広場の端を指した。


「砂漠とかさ」


「草原とかさ」


「誰もいないとことかさ」


「街ごと行けば、壊れても被害ゼロ!」


 リーナが言った。


「坊主」


「何だ」


「街は移動できない」


「じゃあ移動できるようにする!」


「無理だ」


「無理って言うな!」


「無理なものは無理だ!」


 坊主はうなだれた。


「クソ世界」


「同意する」


「次」


 坊主は気を取り直して指を立てる。


「魔王を呼び出す」


「呼べるのか」


「呼べば来るだろ!」


「誰が呼ぶ」


「俺」


「死ぬぞ」


「……死にたくない」


 坊主は即座に引いた。


「次!」


 逃げ足が速い。


「魔王を倒すには勇者が必要」


「でも勇者は敵に会うと周りが壊れる」


 坊主は顎に手を当てる。


「ってことは」


「何だ」


「敵に会わなきゃいい」


「昨日も言って失敗しただろ」


「違う!」


 坊主は叫ぶ。


「昨日は街が馬鹿だった!」


「今日も馬鹿だ」


「今日の俺は賢い!」


 言い張るな。


「会わずに倒す」


 坊主は口を尖らせる。


「遠距離だ」


「遠距離?」


「投げる」


「何を」


「勇者を」


「死ね」


 リーナが即答した。


「やめろ!」


「冗談だ!」


「冗談が下手だ!」


 坊主は慌てて手を振る。


「じゃあ武器だよ武器!」


「勇者の武器を投げればいい!」


「届くのか」


「届かねえ」


「終わりだ」


「終わらせるな!」


 坊主は地面に図を描き始めた。


 円。

 矢印。

 よく分からない星。


「……何の図だ」


「計画図」


「何の計画だ」


「世界を倒す計画」


「魔王だ」


「同じだろ!」


「同じではない!」


 リーナが頭を抱えた。


「坊主」


「何だ」


「お前は今、何をやっている」


「希望を作っている」


「希望の作り方が雑だ」


 そのとき、

 広場の端で屋台がガタッと揺れた。


 倒れない。

 今日はまだ“軽い”。


 坊主が固まる。


「今の」


「何だ」


「俺が考えた瞬間じゃね?」


「気のせいだ」


「気のせいにしてはタイミングが良すぎる!」


 坊主は三歩下がっていた場所から、さらに二歩下がった。


「……五歩にする」


「勝手に増やすな」


「怖いんだよ!」


 リーナが冷たく言う。


「だから言った」


「何を」


「もっと離れろ」


「正論やめろ!」


 坊主は距離を取ったまま、叫ぶ。


「じゃあさ!」


「何だ」


「勇者が動くと壊れるなら!」


「壊れる前提で!」


「壊れても大丈夫な順番で!」


「壊れる場所を先に決めて!」


「壊れる物を先に片付けて!」


「壊れる覚悟をしてから行けば!」


 勢いだけはある。


 リーナが言った。


「つまり」


「何だ」


「準備してから行く」


「そう!」


 坊主は指を差す。


「準備だよ準備!」


「準備ができれば、被害が小さくなるかもしれない!」


 俺は黙っていた。


 考えない。


 でも、坊主の言葉は分かる。


 壊れるなら、先に片付ける。

 巻き込むなら、巻き込まないようにする。


 合理的だ。


 合理的な発想が、なぜか怖い。


 リーナが俺を見る。


「勇者」


「何だ」


「坊主の言うことは」


 一拍置いて。


「間違ってない」


「……珍しいな」


「腹立つがな」


 坊主が胸を張る。


「ほら!」


「俺、賢い!」


「調子に乗るな」


「乗る!」


 リーナが鞘で坊主の頭を叩いた。


「痛っ!」


「賢いなら黙れ」


「賢いから喋る!」


「逆だ!」


 その日、

 坊主は一つだけ成果を出した。


 勇者を動かす方法ではない。


 勇者を動かす前に、やるべきことだ。


 それはつまり――


 準備。


 道を片付ける。

 人を避難させる。

 ぶつかりそうな桶をどける。

 滑りそうな石畳に砂を撒く。


 地味だ。

 地味すぎて笑える。


「勇者」


 坊主が言った。


「明日から、準備すっぞ」


「勝手にしろ」


「勝手にする!」


 リーナが言った。


「坊主」


「何だ」


「準備するなら」


 一拍置いて。


「私が監督する」


「うわ最悪!」


「言うな」


「だって怖い!」


「怖いなら真面目にやれ!」


 坊主は舌を出した。


「へーい」


 異世界二十日目。


 三歩離れて考える作戦は、

 三歩では済まなかった。


 だが坊主は、

 詰んだ世界の中で

 初めて“進める方向”を見つけた。


 準備。


 魔王を倒す準備ではなく、

 勇者が動いても死なない準備。


 地味だが、

 それが一番現実的だった。


 ……地味すぎて、嫌な予感がする。

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