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犯人は主人公  作者: 超俺


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第18話 勇者は戦いに行かないωω

 異世界十八日目。


 俺は今日も広場に立っていた。

 魔王城とは、気持ちいいくらい逆方向だ。


 理由はない。

 というより、理由を考えると大体ロクなことにならない。


 背後で、剣の鞘が石畳を叩く音。


「……勇者。そこ、通路だ」


 振り向かなくても分かる。

 勇者の護衛役を務める女騎士、リーナだ。


「ああ」


 一歩ずれる。

 反射だ。


「昨日も言った」


「そうか」


「覚えろ」


「努力はしている」


「努力じゃなくて移動しろ」


 今日も元気だ。


 広場は静かだった。

 昨日と同じくらい、拍子抜けするほど。


「……今日も行かないのか」


 リーナが言う。


「どこにだ」


「魔王城だ」


「行かない」


「即答だな」


「迷ってないからな」


「その自信、

 どこから来るんだ」


「経験だ」


「嫌な経験だな!」


「勇者なら」


 リーナが腕を組む。


「もう何度も挑めているはずだ」


「挑めるな」


「なら、なぜ動かない」


 俺は黙った。


 考えると、

 橋が落ちたり、

 山が崩れたり、

 なぜか水路が爆発する。


 考えない方が平和だ。


 露店の棚が、ガタッと揺れた。


 倒れない。

 今日はまだ“軽い”。


 リーナの視線が一瞬動く。


「……今の、見たか」


「見てない」


「見ろ」


「見ない方が安全だ」


「意味が分からん!」


「最初のゴブリン」


 リーナが言った。


「覚えているか」


「忘れたい」


「剣を抜いた瞬間、

 後ろの橋が落ちた」


「偶然だ」


「二度目」


「……」


「オークと目が合った瞬間、

 山道が崩れた」


「目が悪かった」


「三度目」


 リーナは溜息をつく。


「雑魚魔族に近づいただけで、

 村の水路が破裂した」


「……水圧が」


「黙れ!」


「つまりだ」


 リーナが指を突きつける。


「お前は敵を見るだけで、

 周囲を巻き込むタイプの災害だ」


「否定はしない」


「否定しろ!」


「じゃあ訂正する。

 俺が戦うと、

 戦場が勝手に増える」


「もっと最悪だ!」


 その時。


「おーい変態」


 坊主のクソガキだ。


「変態言うな」


「今日も魔王行かねえの?」


「行かない」


「だろうな」


 坊主は納得した顔をする。


「お前さ、

 敵と目合うと

 街がイベント会場になるもんな」


「言い方」


「橋崩れ、山崩れ、水路爆発。

 次は何だ?」


「空が割れる」


「やめろ縁起でもねえ!」


「でもさ」


 坊主が首を傾げる。


「じゃあ誰が魔王倒すんだよ」


 広場が、静かになる。


「それは――」


 俺が言いかけた瞬間。


「お前だ」


 リーナが被せた。


「勇者は、お前しかいない」


「分かってる」


「分かってて立ってるのか」


「立っている」


「座れ!」


「座ると危ない」


「意味が分からん!」


「兵士とかさ」


 坊主が指折り数える。


「騎士団とか」


「魔法使いとか」


「いっぱい居るだろ」


「そいつらじゃダメなの?」


「無理だ」


 リーナが即答した。


「この世界で、

 魔王に“届く”のは――」


 俺を指す。


「勇者だけだ」


「届く?」


「斬れるとかじゃない」


「近づいた瞬間、

 世界の方が拒否する」


「拒否?」


「道が崩れる」


「魔法が暴発する」


「理由もなく死ぬ」


 坊主が顔を歪める。


「それ、

 勇者と同じじゃん」


「違う」


 リーナは言い切った。


「勇者だけは、拒否されない」


 坊主が俺を見る。


「じゃあさ」


「お前が行かないと」


「誰も行けねえじゃん」


「そうなるな」


「詰みじゃん」


「詰んでる」


「クソゲーだろ!」


「開発に言え」


「神だろ!」


「いるならな」


 その後、

 誰かが桶を動かした。


 倒れない。

 水もこぼれない。


 今日は静かだ。


「……敵がいない日は」


 リーナが言う。


「平和だな」


「皮肉だな」


「事実だ」


 足元が少し濡れている。


「滑るぞ」


 俺は半歩動く。


 考えていない。

 判断していない。


 ただ、口が先に出た。


「リーナ」


「そこ、端を歩け」


 言ってから、

 少しだけ首を傾げる。


「……ん?」


「今の呼び方」


「何だ」


「……いや、いい」


 その日、

 魔王は倒されなかった。


 誰にも倒せないからだ。


 俺は立っていた。

 何もしないことで、

 世界を保っている。


 勇者が動かない理由は、

 もう誰の目にも明らかだった。


 それでも――

 行く日は必ず来る。


 来てほしくない日が。


 異世界十八日目。

 静かすぎる一日だった。

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