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犯人は主人公  作者: 超俺


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第17話 勇者、今日は本当に何もしていないωω

 異世界十七日目。


 俺は、何もしていない。


 立っているだけだ。

 手も動かしていない。

 考えてもいない。


 なのに、周りが落ち着かない。


「勇者様……」


 役人が三歩離れた位置から声をかけてくる。

 昨日より一歩遠い。


「今日は……」


「起きない」


「え?」


「今日は何も起きない」


 役人は一瞬黙り、それから小声になった。


「それは……宣言ですか?」


「違う。事実だ」


「昨日も似たようなことを……」


「昨日は考えてた」


「今日は?」


「考えてない」


 役人はメモを取るのをやめた。


「……では今日は、“無考察日”ということで?」


「勝手に名前を付けるな」


 周囲がざわつく。


「無考察……」

「それは安全なのか……?」

「逆に危険では……?」


「静かにしろ」


 俺が言うと、全員が三歩下がった。

 なんでだ。


「なあ」


 声。


 坊主のクソガキだった。


「また突っ立ってんの?」


「今日はな」


「昨日も突っ立ってたぞ」


「昨日は考えてた」


「今日は?」


「考えてない」


「へえ」


 坊主は俺の周りをゆっくり回る。

 値踏みする目だ。


「じゃあさ」


「何だ」


「俺が今、派手に転んだら?」


「転ぶな」


「でも転ぶ」


「やめろ」


 坊主は言い終わる前につまずいた。

 わざとだ。


 ――何も起きない。


 普通に転び、普通に痛がり、

 普通に起き上がった。


「……あれ?」


 坊主が首を傾げる。


「何だ」


「桶は?」


「ない」


「石は?」


「転がらない」


「誰か叫ぶとか」


「しない」


 坊主は地面を見回し、俺を見る。


「……つまんね」


「平和だ」


「でもさ」


 坊主は腕を組んだ。


「それって、お前がすごいからじゃなくね?」


「何だそれ」


「昨日までのやつが、

 今日はサボってるだけじゃね?」


 俺は答えなかった。

 考えない日だからだ。


「勇者様!」


 別方向から役人が走ってくる。

 息が切れている。嫌な予感しかしない。


「昨日の件ですが!」


「もう終わった」


「いえ、その……」


 役人は紙を広げる。


「被害報告がまとまりまして」


「読むな」


「読ませてください」


 渋々読む。


「馬車一台、軽度破損」

「塩袋破裂」

「桶転倒」

「負傷者なし」


「……で?」


「一昨日と、ほぼ同じです」


 空気が固まる。


「場所も」


「時間も」


「規模も」


 役人が続ける。


「記録係が

 “再現性が高すぎる”と……」


「偶然だ」


「ですよね?」


 役人は笑顔を作ったが、目が笑っていない。


 坊主が横から紙を覗き込む。


「なあ変態」


「変態言うな」


「これさ」


 紙を指でトントン叩く。


「昨日と同じって、

 逆にムズくね?」


「ムズくない」


「狙ってもできねえぞ」


「偶然だ」


「ふーん」


 坊主は納得してない顔で石を蹴った。


 カツン。


 石は少し転がって、止まった。


「……今日、静かすぎじゃね?」


「だから何もしない日だ」


「でもさ」


 坊主は背を向けて言う。


「昨日までの世界、

 どっかで続いてる感じしね?」


「意味わからん」


「俺も」


 坊主は笑って走り去った。


 その日、街では噂が広がった。


勇者が何もしなかった


だから安全だった


でも昨日と同じ被害が出ている


つまり何かがおかしい


俺はそれを聞いて、何も思わなかった。

考えない日だからだ。


 ただ一つだけ。


 厄災担当が報告書を閉じるとき、

 小さく呟いたのが聞こえた。


「……今日は、

 静かすぎるわね」


 誰に向けた言葉かは、分からない。


 異世界十七日目。


 俺は本当に、

 何もしていない。


 それなのに、

 世界のほうが、

 俺の不在を気にしていた。

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