第13話 俺が何も言わなかったせいで、みんな剣を抜きそうωω
異世界十三日目。
朝起きた瞬間、
嫌な予感がした。
理由は簡単だ。
静かすぎた。
鐘が鳴っていない。
怒号もない。
誰も走っていない。
「……これは来るな」
来た。
「勇者様!!」
兵士が駆け込んでくる。
「街で――
三派閥が同時に集結しています!!」
「集結って何!?」
「武装しています!!」
「まだ抜いてない!?」
「半分抜いてます!!」
「一番ヤバいやつ!!」
広場。
人、人、人。
左に【現実派】。
中央に【確率派】。
右に【安全派】。
見事な布陣。
全員、
俺の方を見ている。
「勇者様!!」
「我々の判断が正しいと――」
「示してください!!」
「言葉を!!」
「沈黙でもいい!!」
「よくない!!」
俺は理解した。
沈黙が、
一番燃料になる状況だ。
ヒロインが小声で言う。
「このままだと――」
「分かってる」
「“小規模内戦”」
「字面が軽いのに重い!!」
リーナが剣に手をかける。
「勇者、
何でもいいから言え」
「何でも!?」
「思想以外で!!」
「無理だろ!!」
現実派が叫ぶ。
「慎重に進めるべきだ!!」
安全派が怒鳴る。
「備えなければ意味がない!!」
確率派が腕を振る。
「六割で十分だ!!
進め!!」
剣が抜かれかける。
半抜きが増える。
最悪だ。
俺は――
考えた。
一瞬。
でも、
未来とか、国とかじゃない。
もっと、
どうでもいいことを。
「……腹減ったな」
――静寂。
「……?」
「……?」
全派閥が固まる。
「……勇者様?」
俺は続けた。
「朝から何も食ってない」
「……」
「この状態で決め事すると、
絶対ロクなことにならない」
誰かが呟いた。
「……確かに」
「腹が減ってると判断が荒れる」
「統計的にも……」
「今ここで統計出すな!!」
空気が、
少し緩んだ。
剣が、
戻された。
ヒロインが小さく言う。
「……止まった」
「理由が腹ってどうなんだよ」
「でも、止まった」
結果。
派閥代表は、
昼食会議に変更された。
武装解除。
座卓。
パン。
スープ。
全員、黙々と食う。
「……うまい」
「冷静になるな」
「さっきの俺たち、
だいぶ恥ずかしくない?」
「言うな」
俺はスープを飲んだ。
「……な?」
「……」
「こういうの、
腹いっぱいの時にやろうぜ」
誰も反論しなかった。
夜。
ヒロインが記録を書く。
「内戦未遂」
「“未遂”で済んでよかったな」
「原因」
彼女は淡々と読む。
「勇者の沈黙による
解釈暴走」
「止めた理由」
「……」
彼女は一瞬、迷い――
書いた。
「空腹」
「歴史書に残すな!!」
リーナが肩を叩く。
「……今日の判断」
「うん」
「賢かったか?」
「知らん」
正直な答えだった。
異世界十三日目。
俺は知った。
思想より、
空腹の方が人を壊す。
そして――
この世界では、
俺が何を言うかより、
いつ何を食うかの方が、
平和に影響する。
明日は――
朝飯、ちゃんと食おう。
それが、
この国で一番重要な政策だ。




