第12話 俺の頭を巡って、国が三つに割れたωω
異世界十二日目。
分散思考システムは、
三日しかもたなかった。
理由は簡単だ。
人間は、
自分の考えが一番正しいと思っている。
朝。
城の会議室。
俺は中央の椅子に座らされていた。
考えない。
喋るだけ。
左右と背後に、
俺の「思考担当」が立つ。
「今日の議題」
ヒロインが淡々と告げる。
「市場拡張計画」
囁きが始まる。
リーナ(現実派)が言う。
「安全第一。
規模は最小限」
将軍(安全派)が言う。
「いや、防衛線を広げるべきだ」
ヒロイン(確率派)が言う。
「成功率六割。
やるなら今」
俺はそのまま口に出した。
「……小さく始めて、
様子を見てから広げる」
被害ゼロ。
拍手。
完璧。
――ここまでは。
問題は、
その結論を聞いた後に起きた。
「勇者は現実派だ!」
「いや、安全派を重視している!」
「確率を見ているのは明らかだ!」
廊下で言い争い。
紙が貼られる。
『勇者思考解析表』
「作るな!!」
その日の夕方。
街には三つの派閥が生まれていた。
【現実派】
・慎重
・小規模
・勇者は堅実
・口癖「まあ落ち着け」
「勇者様は、
無理をなさらないお方だ」
「現実を見ておられる」
俺を見る目が、
妙に優しい。
怖い。
【安全派】
・警戒重視
・軍拡
・勇者は抑止力
・口癖「念のため」
「勇者様は、
最悪を想定しておられる!」
「だから武装を!」
俺を見る目が、
妙に期待に満ちている。
やめろ。
【確率派】
・数字至上
・賭ける
・勇者は計算機
・口癖「六割なら行ける」
「勇者様は未来を見ている!」
「確率が示している!」
俺を見る目が、
信仰に近い。
最悪だ。
翌日。
街で事件が起きた。
井戸の修理。
小さな案件。
派閥ごとに意見が割れる。
「今すぐ直すべき!」
「危険だ、封鎖!」
「成功率七割、行ける!」
全員が俺を見る。
囁きが、
同時に飛んできた。
俺は――
考えなかった。
でも。
「……」
沈黙した。
その沈黙に、
全派閥が意味を付けた。
「勇者は“即断を避けている”!」
「勇者は“危険を察知している”!」
「勇者は“確率が低いと見た”!」
結果。
三派閥が
別々に動いた。
現実派は修理。
安全派は封鎖。
確率派は実験。
――井戸、壊滅。
「おい!!」
被害:
井戸一基。
死者ゼロ。
「……小だな」
誰かが言った。
俺は叫んだ。
「俺、何も言ってない!!」
ヒロインが冷静に記録する。
「分散思考の欠陥」
「何だよ」
「結論が一つでも、
解釈が分散すると事故る」
「人間社会そのものじゃねえか!!」
夜。
派閥同士の会合。
俺は真ん中に座らされている。
完全に象徴。
「勇者様、
どの派閥が正しいと?」
俺は答えなかった。
考えなかった。
それでも――
全員が期待する。
俺は悟った。
分担したのは思考だけで、
責任は分担していなかった。
だから、
全員が俺を見ている。
「……なあ」
俺は小さく言った。
「俺の頭、
もう国営インフラだな」
リーナが苦笑する。
「今さらだ」
ヒロインが付け足す。
「次は、
派閥統合か、完全崩壊」
「二択が極端すぎる」
異世界十二日目。
俺は知った。
考えを分けても、
人は争う。
そして――
その争いの理由に、
必ず俺の名前が使われる。
次、
もっと面倒なことが起きる。
……絶対。




