第11話 世界は俺の代わりに考えることにしたωω
異世界十一日目。
会議室に入った瞬間、俺は察した。
「……ろくな案じゃないな」
机が多い。
人が多い。
紙が多い。
全員の目が輝いている。
最悪だ。
「勇者よ」
国王代理が咳払いした。
「結論から言う」
嫌な予感。
「思考を分担する」
「意味が分からない」
「お前が考えるから壊れる。
なら――」
将軍が立ち上がる。
「皆で少しずつ考えればいい」
「合議制で爆発を回避しようとするな!!」
白髪の少女――厄災担当ヒロインが、淡々と資料を配る。
「新制度案
《分散思考式・勇者運用システム》」
「名前からもうダメだ」
■システム概要(地獄)
勇者は一切考えない
周囲が代わりに考える
結論は勇者の口から言う
事故が起きたら勇者のせい
「最後おかしいだろ!!」
「一貫性」
「どこが!?」
リーナが腕を組む。
「要するに」
「要するに?」
「お前は喋るスピーカーだ」
「人権どこ!?」
テストが始まった。
場所:街の広場。
観衆:大量。
警戒:最大。
「勇者、質問だ!」
商人が叫ぶ。
「この噴水、修理すべきか!?」
俺は何も考えない。
ヒロインが耳元で囁く。
「修理」
将軍が反対側で囁く。
「様子見」
司祭が祈りながら囁く。
「神に委ねよ」
リーナが低く言う。
「無難に止めろ」
俺の脳内、
四方向からの囁き地獄。
「……えー」
俺は口を開いた。
「“一旦止めて、修理を検討する”」
――ドン。
噴水、止まる。
被害ゼロ。
ざわめき。
「成功だ……」
「分担が効いている!」
「賢い!」
「賢くねえ!
俺、ただの中継だ!!」
次のテスト。
橋の老朽化問題。
囁き。
「封鎖」
「補強」
「予算不足」
「今は渡るな」
俺は言う。
「……今日は使わない」
橋、無事。
評価、爆上がり。
「完璧だ!」
「勇者は考えずして答えを出す!」
「違う!!
お前らが考えてる!!」
問題が起きたのは、
三人以上が同時に本気で考えた時だった。
「戦争についてどう思う?」
突然の質問。
囁きが――
十方向から飛んできた。
「抑止!」
「和平!」
「先制!」
「話し合い!」
「徴兵!」
「予算!」
「神託!」
「世論!」
「外交!」
「怖い!」
俺は――
考えた。
一瞬。
「……全部」
――ドン。
小さな揺れ。
看板が落ちる。
「やめろォ!!」
ヒロインが即座に記録。
「結論。
思考人数が多すぎると、
勇者が補正を始める」
「補正すんな!!」
「人間だもの」
緊急対策が決まった。
思考担当は三人まで。
役割分担。
リーナ:現実
将軍:安全
ヒロイン:確率
「司祭は?」
「声が大きいので外した」
「納得だ」
俺は深く息を吐いた。
「……なあ」
「何」
「俺、結局、考えてるよな」
ヒロインは少しだけ首を傾げた。
「考えている。でも――」
「でも?」
「一人で背負っていない」
それは、
この世界に来て初めて聞いた
まともな言葉だった。
夜。
新条例が公布された。
《勇者分散思考法》
・勇者は単独で考えてはならない
・思考は必ず分担すること
・最終責任は勇者が負う
「最後いる!?」
異世界十一日目。
世界は、
俺の脳を共有財産にした。
狂っている。
でも――
ちょっとだけ、楽になった。
たぶん、
これが“社会”ってやつだ。




